国賠原告と判事の非公開交渉を防衛省職員が秘密録音
本田雅和・編集部|2022年11月8日7:00AM
在日米軍横須賀基地で働いていた女性が長時間労働で精神疾患を患ったとして国に損害賠償を求めている訴訟で、被告・国側の指定代理人である防衛省職員が、被告側退席後の原告と裁判官との非公開手続きを秘密録音していたことが分かった。民事訴訟規則第77条で禁じられている「裁判長の許可なき録音」にあたり、防衛省も事実関係は認めている。
青年法律家協会(青法協)弁護士学者合同部会(議長・笹山尚人弁護士)は10月21日、他の録音内容も確認したうえで「(意図的な)盗聴と呼ばれても仕方のない行為」として防衛省側に①関係者への陳謝②録音の範囲や情報提供先などの厳密な調査③再発防止などを求める抗議声明を発表。筆者も防衛省に回答を求めたが、同省報道室は「弁論準備手続期日に職員の録音機が録音状態であることが発覚しました。職員が規則に違反する行為をしたことは誠に遺憾。事実関係を調査した上で適切に対応いたします」とだけ回答。①②③などには答えなかった。
事件は10月11日、横浜地裁横須賀支部で起きた。関係者によると、和解協議のため原告側と裁判官が話し合うことになり、被告・国側がいったん退席した後、国側が残していった書類ファイルの下で録音状態のICレコーダーを原告側弁護士が発見した。裁判官の立ち会いのもとで内容を確認したところ、同日のやりとりだけでなく、別の日の弁論準備手続きの会話も録音されていたという。
権力機関による違法録音
公開の裁判の秘密録音などは、ジャーナリストが正確な報道をするためにこれを行なって問題になったことはあるが、国側が退席して聞けない他方当事者の会話を権力機関である国側が盗聴録音するなど前代未聞だ。特に弁論準備や和解手続きにおいては、この民事訴訟規則こそが、紛争解決のために非公開とすることで忌憚のない意見交換や人権保障のための法体系の一環だといえるのではないか。
青法協が「このような行為が防衛省職員によって行われたことからすると、防衛省は他人の秘密やプライバシー権を軽視し、国民に対する情報収集活動を行っているのではないかとの疑念を払拭できない」と抗議するのもむべなるかなだ。
(『週刊金曜日』2022年11月4日号)