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東京・新宿区長選、自公推薦現職勝利の裏側で見えたもの
寒川栄・ジャーナリスト|2022年11月21日7:00AM
「大変ご心配かけて申し訳ございませんでした」
11月13日投開票の東京都新宿区の区長選、現職で3選を果たした吉住健一区長(50歳)=自民、公明推薦=はそう言うとほっとした表情を見せた。
現職が最も強いとされる3選を目指す選挙。得票数が相手候補の2倍を超える勝利だったが、支持者を前にした最初の言葉は、その票差からはかけ離れていた。吉住区長は事務所開きでも「中央線の(保守系)首長が次々と(リベラル系に)敗れている。新宿が最後の砦だ」と不安を漏らしていた。
選挙戦は吉住区長に対して元新宿区議で行政書士の依田花蓮さん(50歳)=立憲、共産、れいわ、社民、東京・生活者ネットワーク、新社会、緑の党支持=が挑んだ。与野党ががっぷり四つに組んだ構図。同時に依田さんはトランスジェンダーであることを公表して首長選挙を戦った。当選していれば首長では初のケースだった。結果は吉住区長が5万2140票、依田さんが2万1969票(投票率28・05%)。現職が大勝を果たした選挙だったが、吉住区長が選挙で感じた不安は何だったのか。
連合東京は前回区長選と同じく吉住区長を推薦した。だが、連合内でも全国コミュニティ・ユニオン連合会(全国ユニオン・鈴木剛会長)が公然と依田さんを支援していた。そんな中で吉住陣営をピリピリさせたのは、都内の首長選挙でジワジワとリベラル系の首長が誕生している状況だった。
その象徴が、4選を目指した現職の田中良氏を、市民が中心となった野党共闘で新顔の岸本聡子さんが破った6月の杉並区長選挙だ。岸本さんは、地方自治体でも新自由主義が幅を利かせ、公が果たすべき役割を外部に委託する状況に疑問を投げかけ「公の再生」を訴え勝利した。都内では世田谷区の保坂展人区長に始まり、武蔵野市、中野区と、リベラルの首長が誕生、再選されてきた。岸本区長の誕生でその流れがより強まった。冒頭の吉住区長の発言に見られるように、保守派は危機感を抱くまでになった。吉住陣営の幹部は「油断できない選挙だった」と振り返った。
“おっさん政治”見直そう
実際、依田陣営の「多様性は、パワーだ!」をスローガンに「ちいさき声をすくいあげる」などの主張は区民の共感を得た。具体的には吉住区長が高齢者施設廃止や神宮外苑再開発、公の機能の外部委託など新自由主義的政策で656億円の基金・積立金を積み上げたと誇っていることを指摘した。
〝貯金〟を増やすことはこれまでならば単純に〝やり手の首長〟と評価されたであろう。しかし依田陣営は「裏を返せば生活支援など区民が必要としたことを何もしなかった証拠」と批判し、「お金は生活の底上げや子どもたち、若者の未来に使うべき」と訴えた。それは、紛れもなく、新自由主義から「公の再生」へとシフトチェンジを訴えたものだった。
勝利に至らなかったが、依田さんの訴えは首都圏のリベラルな市民を励ましている。今回の結果に、千葉県内で護憲活動をする女性は「改憲派が国会の3分の2を占め暗い気持ちだったが、来春の統一地方選で地域から変えられるとの思いを強くした」と話す。立教大学名誉教授で地方政治に詳しい五十嵐暁郎さんは「中央は自民一強状態だが、地域では開発最優先の〝おっさん政治〟を見直す転換点が来つつあるのではないか。住民が街の自治や文化など、公を取り戻し自分たちの街づくりを託す候補を選ぶ、そんな流れが始まっているのでは」と分析する。
敗北を受け依田さんは「『ちいさき声をすくいあげる』の訴えに手応えを感じていただけに残念。若者の政治への関心のなさを嘆く声もあるが違う。ここまでひどい政治にしてしまったのは〝大人〟の責任。私たち(大人)がけりをつけなければならない。憲法の理念を守るのが政治信条。そのための活動を続けていく」と語った。
来春の統一地方選挙。「地域から政治は変えられる」との波紋は広がる可能性を秘めている。
(『週刊金曜日』2022年11月18日号)