リニア行政訴訟、原告住民が語った“不都合な真実”
樫田秀樹・ジャーナリスト|2022年11月23日7:00AM
JR東海が2027年に東京(品川)―名古屋間開業を目指すリニア中央新幹線(以下、リニア)の建設計画をめぐり、杜撰な環境アセスメントでありながら14年に事業認可されたとして、住民ら738人が国土交通省に対し認可取り消しの行政訴訟を提起したのは16年5月。以来6年を経た今年10月17日と11月7日、原告側住民ら9人の証人尋問が実現した。 10月17日には長野県の松島信幸氏(91歳)が証言した。松島氏は元小中学校の理科教師。南アルプスを歩き続け、その地層構造を明らかにしたことで九州大学より博士号を授与されている。証言では「南アルプスの山体は幾重もの断層が折れ曲がっていて、折れ曲がりのもっとも高い圧力を受けるところをリニアは通過する。活断層が動いたらひとたまりもない」とその危険性を訴えた。
11月7日には、本訴訟とは別途リニア工事差し止め訴訟を提起している三木一彦氏(東京都大田区田園調布在住)が証言台に立ち、JR東海の住民軽視を訴えた。
20年10月に都内調布市の地下47メートルの場所でNEXCO東日本(東日本高速道路)がシールドマシンで建設中の「東京外かく環状道路」の直上が陥没している。同じ工法でJR東海が田園調布の地下を掘削することに不安を抱く住民は、21年6月にJR東海の住民説明会に参加したが、JR東海は「しっかり工事をやる」とだけ説明。反対の意見や質問が多数を占めたのに、当日の記者会見では「住民の理解を得た」と表明した。21年10月に品川区から発進させたシールドマシンは、わずか50メートルで稼働不能に。不安を強めた三木氏は何度も説明会の開催を要請したがすべて拒否されており、「JRの工事事務所で説明を求めると、職員は『よくあることだ』と言った」と、正確な情報を出そうとしないJR東海を批判した。
国、JRからは反論なし
奥脇隆樹氏(山梨県都留市)は1997年から運用されている山梨リニア実験線のすぐ近くに住む。90年に実験線建設が始まった時、JR東海が「リニアは線路もない。パンタグラフもないから騒音は出ない」と説明し、義父が「それならよかった」と安心していたと奥脇氏は話す。だが25年経った今も自宅近くの走行区間には防音フードがなく、リニア走行時には騒音が家屋を直撃する。騒音は酷い時には100デシベルを超え、地域の子どもたちが勉強できないでいるが、JR東海に防音フードを設置する意思はない。その理由が分かったのは今年9月4日だ。JR東海は「フードの重量に橋脚が耐えられない」と説明したのだ。
「さらにJR東海は融雪施設の建設のため、私たち14世帯に立ち退きを求めてきました」と、奥脇氏は自分たちを追い詰めるJR東海の姿勢を厳しく批判した。
林克氏(静岡県)はリニア計画が不十分な環境アセスで事業認可を受けたことを明確に指摘した。同県での問題は、南アルプスでのトンネル工事でこのまま無策なら県の水源である大井川の水流が毎秒2トン減流することだ。JR東海は導水路を建設してトンネル湧水を大井川に放流する案を示しているが、林氏は「毎秒2トンの計算根拠も示されず(全長約11キロの)導水路は環境アセスの対象外。必要なデータが示されていない」と批判。次いで『静岡新聞』2020年9月10日付のスクープ記事を紹介した。南アルプスの地中には超高圧で閉じ込められた地下水が5カ所にあり、工事で大量湧水する可能性があるとの調査文書をJR東海が隠していたとの内容だ。
「13年の資料ですが、JR東海はそれを開示せず(14年に事業認可を受けた以上)、認可を取り消すべきだ」と林氏は訴えた。
以上の証人尋問を傍聴して印象的だったのは、原告側9人の証言内容に対し、被告の国と「参加人」のJR東海がほとんどまったく反対尋問をしなかったことだ。これは原告の主張が事実であると認めているともとれる。
本裁判は残すは来年2月3日の双方の最終弁論だけだ。夏前にはいよいよ判決が出される。
(『週刊金曜日』2022年11月18日号)