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財務省改竄訴訟、大阪地裁は佐川氏の賠償責任認めず

相澤冬樹・ジャーナリスト|2022年12月3日7:00AM

11月25日、夫の形見のマフラーを巻いて大阪地裁での判決に向かう赤木雅子さん。(撮影/相澤冬樹)


「この記事、おかしくないですか?こんなのとっくにわかっていることなのに。誤報じゃないですか」

 大阪のある報道機関の記者がスマホのウェブ記事を示しながら訴えてきた。共同通信の配信記事だ。見ると「財務省改ざん、請求棄却佐川氏が決定と大阪地裁」という見出しが目に入る。

 財務省の公文書改竄事件で命を絶った近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻、赤木雅子さんが、改竄を主導した当時の理財局長、佐川宣寿氏に損害賠償を求めた裁判が11月25日、大阪地裁で一審判決を迎えた。大きな注目を浴びた判決の主文は「原告の請求を棄却する」。直後に報道各社が「佐川氏の賠償責任認めず」と速報を打った。だからこの見出しも前半はもっともだが、後半の「佐川氏が決定と大阪地裁」ってどうだろう?

 記事の本文を見ると、こうある。

「大阪地裁は25日、佐川氏が改ざんの方向性を決定付け、財務省が組織的に改ざんを行ったと認めた」

 この書き方は誤解を招く。というか、事実に即していない。判決は実際は次のように記している。

「財務省自身が認める内容を前提とすると、(改ざんは)組織的にされたものである。被告(佐川氏)は、財務省の調査報告書において、その方向性を決定づけた者で、問題行為の全般について責任を免れるものではないとされている」

 つまり裁判所自身の判断ではなく、財務省自身が4年前に公表した改竄の調査報告書の記載を引用しているだけだ。たとえば『読売新聞』(大阪版)は翌26日の朝刊1面で次のように書いている。

「佐川氏の改ざんへの関与については『佐川氏が改ざんの方向性を決定づけた』とする財務省の調査報告書の引用にとどまり、具体的な言及はなかった」

 これが事実に即した記述であり、冒頭の記事はあたかも佐川氏の関与が判決によって初めて認定されたかのように誤認させるものだ。提訴から2年8カ月、大阪地裁の担当記者が次々に異動し、背景をきちんと理解している記者やデスクが減っているのかもしれない。

裁判はなおも続く

 裁判の最大の争点は、佐川氏が財務省の局長として行なった改竄の指示について個人責任を問えるかどうかだった。国家公務員が職務上行なった行為は国が賠償責任を負い、公務員個人に賠償を求められないという、最高裁の古い判例がある。これに対し原告弁護団は次のように訴えていた。

「改竄の指示は佐川氏の保身と省内の歓心を買うため行なわれた。改竄により森友学園案件は国会で十分な審議ができなかった。議会制民主主義を破壊し国民主権を機能不全に陥れる悪質な行為だから最高裁判例にとらわれず佐川氏個人の責任を認めるべきだ」

 市民感覚からすると実にまっとうな意見だが、判決ではまったく顧みられず、最高裁判例を一歩も超えない判断が示された。改竄問題では昨年12月、雅子さんが国を訴えた訴訟で国が訴えを認諾し、賠償金を払ったから、それ以上は必要ない、と読み取れる記述があったことも「金さえ払えばいいんだろ」と言われたようで雅子さんをがっかりさせた。

 さらにもう一つ重大な問題がある。雅子さんが佐川氏に求めていた改竄の説明や謝罪について判決は「道義上はともかく法的義務はない」と言い切ったのだ。そもそも佐川氏が真相を説明し謝罪していれば、雅子さんが裁判を起こすこともなかった。これでは到底納得できるものではない。

 しかも法廷の被告席には誰もいなかった。佐川氏本人も代理人の弁護士もいない。判決を聞く価値はないとでも言うかのように。満席の傍聴席から「おかしいんじゃないの」と声が上がった。でも佐川氏はついに一度も法廷に来なかった。雅子さんはしみじみ感じた。

「佐川さんは法律に守られているけど、夫は守ってもらえなかった」

 雅子さんは9月、佐川氏らを新たに虚偽公文書作成罪で東京地検特捜部に告発状を出した。検察は告発を受理し捜査してほしい。そして自らはこの裁判で控訴し、真実の追求を続けるつもりだ。

(『週刊金曜日』2022年12月2日号)

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