検察官に「まんまと騙されて信じてしまった」 冤罪の青木惠子さん最終意見陳述
粟野仁雄・ジャーナリスト|2022年12月4日5:18AM
大阪市東住吉区の民家で1995年7月に女児(当時11歳)が焼死した火災で殺人罪とされ、服役後、再審無罪となった母親の青木惠子さん(58歳)が国に対して約2000万円の損害賠償を求めた訴訟が、11月18日に大阪高裁(牧賢二裁判長)で結審した。牧裁判長は判決日を来年2月9日に指定する一方、原告と被告側双方に非公開の和解協議を提示し、閉廷後に協議に入った。今後は和解への国の対応が焦点となる。
青木さんは内縁の元夫と共謀して保険金目当てで放火して入浴中の娘を焼死させたとされ無期懲役判決が確定。和歌山刑務所で刑に服した。しかし再審請求に際し弁護団が火災再現実験をした結果、元夫が狭い車庫でガソリンを大量にまいてライターで着火して火傷も負わないことはありえず、風呂釜の種火がワゴン車の給油口から漏れていたガソリンに引火した事故だと判明。2015年に釈放され、翌年の再審で無罪が確定した。
「警察と検察の不当な違法捜査で20年も拘束された」として青木さんが国(検察)と大阪府(警察)を訴えた。一審の大阪地裁は和解案を提示し、青木さんはこれを受け入れたが、国は和解協議に一度も出席せずに和解を拒否した。判決は大阪府には違法性を認めて賠償命令を下したが、国については違法を認めず、青木さんと大阪府がどちらも控訴していた(本誌2月11日号、4月1日号で既報)。
控訴審で弁護側は、青木さんを取り調べた大阪地検の内田武志元検察官(現公証人)の証人尋問を求めたが、裁判所は「記憶が正確でないと考えられる」「個人的な糾弾が目的」などと却下した。
検察官の“騙し”を糾弾
最後に陳述を認められた青木さんは「今回裁判所は私が申請しました証人3名(筆者注・うち2人は鑑定人)をすべて却下されました。それは裁判所が証人を呼ぶまでもなく私の主張、これまでに弁護団が提出した書面で十分に理解されたということでしょうか」と裁判長に問いかけ、検察の取り調べの模様を次のように語った。
「個人的な話までしてきた内田検事に対して私は『この人ならわかってくれるかもしれない』とすがる思いで、調書は作らないという約束(筆者注・弁護士に作らせないように言われていた)後に、当日の火災の状況、私の行動を話しました。内田検事は『おかしなところがいっぱいある。もっと早くに話してくれていたら、弁護士と違って私たちはすぐに調べられたのに遅かった』と言われたので不安になりました」
「その後(中略)内田検事から『あなたを有罪と思って起訴するわけではありません。もし、私があなたの弁護人なら闘う方法があります』と言われた」
「起訴をすることに反対してくれたと受け取り、まんまと騙されて信じてしまった」
――などと詳細に陳述。閉廷後の会見では「国は検察官の捜査報告書の開示を拒否したけど、証拠は国のものではないんです」と話した。弁護団の加藤高志弁護士は「裁判所の和解はほとんどが国側への働きかけでした。具体案はまだ出ていません」と説明した。
青木さんは現在、湖東記念病院事件の西山美香さん、布川事件の桜井昌司さんら冤罪被害者とともに他の被害者の支援活動に奔走する。その資金捻出のために広告チラシ配りのアルバイトをする傍ら、介護士の資格を取るために専門学校に通っている。
「裁判所が真実を見抜いて正しい判断をしてくれなければ国はまったく反省もせず、冤罪の仲間たちは救われません。どうか、どうか、この裁判に真剣に向き合って今度こそ正しい判決を言い渡してください」
この日、広い法廷で青木さんは渾身の陳述をこう締めくくった。
一審判決の際、青木さんは怒りのあまり、それまで信用していた裁判長に渡そうと持参してきた手紙を、彼の目の前で破り捨てた。司直の手で人生を滅茶苦茶にされ、60歳を前に懸命に人生を立て直している女性を「法の番人」が再び裏切ることは許されない。
(『週刊金曜日』2022年12月2日号)