東京・小金井市で、市長が専決処分「不承認」の責任をとって辞職したことに伴う市長選挙と、市議会議員補欠選挙（被選挙数２）が11月27日に行なわれた。同市では過去市長が５人も任期中に辞職する「問題自治体」として知られ、自治体の行政課題を先行的に示す「カナリア」的存在でもある。市長選は、無所属新顔で前市議の白井亨氏（47歳）が、無所属新顔で共産党地区委員長の小泉民未嗣氏（44歳）＝共産推薦＝を大差で破り、初当選した。自民党は候補者を擁立することができず、「不戦敗」に終わった。

　市長辞任に至る騒動のきっかけは、市立保育園５園のうち２園を段階廃止する条例を当時の西岡真一郎市長（旧民主党系）が９月議会に提出したが、市議会厚生文教委員会が「専門家による意見聴取が必要」と継続審議とし、採決しなかったことだ。西岡市長は来年度募集が迫っているのに「議会が議決しなかった」ことを理由に「独裁的手法」である専決処分で条例を強行成立させた。これに市議会は猛反発、専決処分を20対２で不承認としたため、市長は「重大な政治決断」として突如辞職、選挙に出馬しないと表明した。

　市立保育園の廃園には、全国の自治体が苦しんでいる公共施設の老朽化問題が背景にある。建て替えのための財政的余裕がないのだ。また、辞職の原因は、そればかりではない。小金井市は、全国でも珍しい賃貸庁舎を長年使い続けている。２０１５年に西岡氏が初当選した際の公約は、賃貸庁舎を解消するための「６施設複合案」だった。「夢の公約」として有権者は支持したが、１年もしないうちに市長は実現が難しいと「ゼロベースで見直し」を表明、事実上の公約撤回となった。

　曲折を経て、２０２０年には新庁舎・新福祉会館建設基本設計（案）を市報で発表。多くの市民はようやく新市庁舎ができると期待したが、新たな迷走劇の始まりだった。（１）建設予定地には浸水の恐れが判明、（２）市庁舎は免震構造なのに福祉会館は耐震構造で異なる、という問題が浮上。加えて、市全体の老朽施設再建に30年で約１５００億円もの資金が必要だが積立金が乏しく、市庁舎建築資金計画（約１１０億円）に疑問符がつき着工予定が宙に浮いた。５月から市議会と協議が続いていたが、混迷状況に陥った。西岡市長は「死に体」だったとの見方もある。突然の市長辞任で市政は大混乱に陥った。

　市長選に早々と名乗りを上げたのが白井亨氏。国政政党とは距離を置き、政策コンテスト「マニフェスト大賞」を受賞するなど、若い市民から支持される市民派の人材だ。

自治体問題のエキスパート

「市政奪還」をめざすはずの自民党は、内部対立や統一教会問題の逆風から候補者擁立を「断念」せざるを得なくなった。無投票かと思われたが、共産党が告示直前に地区責任者を辛うじて擁立した。

　また新聞各紙がメディア不況で地方版紙面を大幅縮小しており、大半の市民は、市長辞任の背景などの情報にアクセスできぬまま投票日を迎えた。当然ながら選挙戦は低調で、投票率は35・59％（前回40・89％）と過去最低に。無効票も２０００票以上あった。

　一方、白井氏の市議辞職などに伴う市議補選では、脳性まひによる重い障害を持つ高木章成氏（46歳）が当選した。高木氏は、発声や運動能力に障害を抱えるが、法政大学大学院で政治学を専攻した自治体問題のエキスパート。小金井市の「子どもの権利条例」の生みの親でもあり、上田令子・東京都議の政策スタッフを務める逸材だ。今回、「公立保育園廃止が市長の専決処分で決められたことは同条例の理念に反する。前市長の責任を追及しなくては」と立候補、市政刷新に意欲を見せた。

「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」によると、全国に37人の障害者の議員がいる。高木氏は東京都下では初の脳性まひによる障害を持つ議員となる。障害者の目線で危機に陥っている市政を改革することが期待される。

（『週刊金曜日』２０２２年１２月２日号）