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どこまでも軽く扱われる〝上級国民”でない人たちの命 〈編集委員コラム 風速計〉雨宮 処凛
2022年12月9日7:00AM
「トー横のハウル」が死んだ。
東京・新宿歌舞伎町の「トー横」に集まる「トー横キッズ」たちに炊き出しなどをしていた人物で、ボランティア団体「歌舞伎町卍会」代表、「ハウル・カラシニコフ」と呼ばれていた。今年6月、少女にみだらな行為をしたとして逮捕されていた。享年33。
死因など、詳しいことはわからない。報道によると、東京拘置所内の部屋で体調が急変し、その後、死亡したという。
この報道で、最近試写会で観たある映画を思い出した。それは『THE FOOLS 愚か者たちの歌』。1980年に結成された伝説のバンド「THE FOOLS」を追ったものだ。が、バンド活動はメンバーの度重なる逮捕(違法薬物)などで崖っぷち。映画は2013年、ボーカルの伊藤耕が出所するところから始まるのだが(逮捕は7回目)、彼はすでに還暦近くなっている。
それでもバンド活動を再開させるのだが、少しのシャバの期間を経て、伊藤は再逮捕。「ミュージシャンとしては最高だけどろくでもないおっさんだな」と笑いながら映画を観ていたのだが、映画の途中、私は試写室で凍りついた。北海道・月形刑務所に収監されていた伊藤が亡くなってしまうのだ。享年62。
出所まで、あと40日のことだった。身体の不調を訴えた彼は病院に連れていかれるものの適切な処置はされず、苦しみ抜いて死んだのだ。救えるチャンスは何度もあった。が、彼の訴えは、誰にも届かなかった。死因は、腸閉塞による出血性ショック。
思わず頭に浮かんだのは、入管施設で亡くなったスリランカ人女性・ウィシュマさんのことだ。彼女も何度も不調を訴えるものの、その声はどこにも届かなかった。そうして異国で無念の死を遂げた。
ここまで登場した3人に共通するのは、決して「上級国民」ではなかったということだ。この国では、いわゆる上級国民や一部政治家は何をしても逮捕などされない(それどころか国葬で見送られたりする)。その一方で、外国人や「トー横」に出入りする金髪の男、薬物で再犯を繰り返すミュージシャンなどの命はどこまでも軽く扱われる。
2019年、伊藤の妻は「刑務所での不当な扱いによって伊藤は亡くなった」と国家賠償請求訴訟を開始。映画『THE FOOLS 愚か者たちの歌』は、来年1月から公開予定だ。
(『週刊金曜日』2022年12月2日号)
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