強制動員朝鮮人への謝罪・補償問題 平野啓一郎さんと中沢けいさんが語ったこと
本田雅和・編集部|2022年12月11日7:00AM
「個人の権利が国家や大企業の権力に踏みにじられていった事実を多くの文学作品から学んできた僕が、徴用工問題の被害者に共感もできず、何らの声も発せられないとしたら、文学者としての僕は全部ウソになる」――芥川賞作家の平野啓一郎さん(47歳)は、静かな語り口ながらも激しい言葉でその心情を吐露した。
11月30日、東京都内で開かれた「被害者が生きているうちに解決を! 今こそ謝り、つぐなうとき」と題した討論集会。韓国の最高裁=大法院が戦争中に強制連行された朝鮮人の被害事実を認め、日本企業に賠償を命じる判決を出して4年――日本政府はこの判決を「国際法違反」と決めつけ、賠償問題は1965年の「日韓請求権協定で解決済み」として韓国に経済報復したのは記憶に新しい。
韓国政府は現在、被害者側の意見も聞きつつ、解決策を模索。基金を設置して賠償を肩代わりさせる案も検討、日本企業の謝罪と基金への出資を求めているが、日本政府はそれに応えるどころか、2021年には歴史教科書から、朝鮮人強制連行、強制労働の事実を削除させる政治介入に及んだ。
この日の集会は、これまでのような学者・研究者、市民運動家のみならず、平野さんのような作家・文学者が参加して積極的に発言したことで画期的だった。
小説『海を感じる時』で群像新人賞を受けた小説家の中沢けいさん(63歳)は「こういう場所でこういう話をするのは初めて」と前置きし、音楽や文学などの文化分野では日韓交流が進んでいることを体験的に語り、「日韓関係が戦後最悪」などというのは政治家の責任であると批判した。
「世界各地に植民地を持った国々は歴史と実情をふまえ、植民地政策の反省と賠償を求められている。これは21世紀に世界の秩序を構築するうえでの大きな流れだ」として、「大法院の出した判決に日本企業が従っていれば、今日の日韓の緊張関係はあり得なかった。どうして日本政府が企業に『外国の最高裁の判決に従うな』などと求められるのか? 当時首相であった安倍晋三氏は凶弾に倒れたので見解は聞けないが、重大な責任がある」と言う。