「配偶者同意」なき中絶手術 元夫が医師訴えた控訴審判決は一審と同じく棄却
岩崎眞美子・ライター|2022年12月17日11:17AM
女性の自己決定権の侵害
医師側代理人の日高洋一郎弁護士は「DVがあったかどうか、本当に離婚しているかどうか、中絶の配偶者同意をめぐる判断に明確な指針や基準がなく、医師に真偽を確かめるための法律的権限もない中で、医師は裁判リスクを抱えながらその判断を委ねられてきた」と指摘。今回の判決はそのような医師の立場に配慮した内容になっていると評価した。
被告となった医師も、原告の訴えが棄却されたことに安堵しながらも「このような裁判を起こされること自体が、医師へのプレッシャーとなる。裁判リスクを忌避するため、本来は必要のない場合でも配偶者同意を求める風潮が強まるのではないか」と危惧する。
刑法堕胎罪が今も生きている日本では、中絶は今も「罪」。ただし、身体的・経済的理由があれば例外的に罪にならないとしたのが母体保護法だ。だがその場合も配偶者の同意は必要で、DVを受けているなど事実上配偶者同意を得にくい場合のみ例外的に同意なしでも認められる。女性が、自分の体と健康に関する自己決定をするためには、いくつもの「例外」を超えなければならない。それが今の日本の現実なのだ。
しかも、既婚者でない人にも「配偶者同意」を当たり前のように求める医療機関はいまだ多いし、事実婚の場合はどう判断されるのかなど判断が曖昧な点も多い。また、既婚者が第三者にレイプされた例や婚外子の妊娠でも、なぜ「夫の同意」が必要になるのか。そもそも女性の身体なのになぜ女性の自己決定権が尊重されないのか。
「中絶における配偶者同意要件は女性自身の自己決定権を侵害するもので個人の尊重を規定した憲法13条違反」と前出の日高弁護士も指摘する。今後、最高裁で争われることになれば、これまで曖昧にされてきた日本のリプロダクティヴ・ライツ(性と生殖に関する権利)の問題点を広く世に問う重要なきっかけとなるはずだ。
(『週刊金曜日』2022年12月16日号)