国民生活を犠牲にした安保政策の大転換
2022年12月30日7:00AM
自民・公明両党は12月12日、政府の外交・安全保障の基本方針を示す「国家安全保障戦略」、日本の防衛力指針を示す「国家防衛戦略」、具体的な装備品の整備と防衛費の総額を定める「防衛力装備計画」の安保関連三文書の改定内容に合意した。そして政府は12月16日、改定された安保関連三文書を閣議決定した。
これに先立ち岸田文雄首相は12月5日、2023~27年度の5年間の防衛費を総額約43兆円とするよう浜田靖一防衛相と鈴木俊一財務相に指示した。5年間で約43兆円の防衛費を増額すると、27年度の防衛費は、国内総生産(GDP)比2%の約11兆円となる。また岸田首相は12月8日、政府与党政策懇談会で防衛費増額分の約1兆円強を増税で賄う方針を表明している。
安保関連三文書の内容には、これまでの「専守防衛」戦略を大きく転換する敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が盛り込まれている。わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態、すなわち「存立危機事態」であると判断される場合に、もし敵基地を攻撃すれば、日本も戦争に巻き込まれ、日本全土が戦場となる危険性がある。敵基地攻撃能力の保有や防衛費倍増は、東アジア地域の軍拡競争と緊張激化を招き、際限のない軍備拡張競争を招く恐れが大きい。
このような安全保障政策の大転換であるにもかかわらず、先の臨時国会では十分な議論が行なわれなかった。
一方で、コロナ禍や物価高で生活に困窮する人々が増加し、貧困と格差が拡大してきている。この間、政府はたび重なる生活保護基準の引き下げや年金支給額の減額など、社会保障費の削減を続けてきている。今後は、後期高齢者の医療保険料の引き上げや高齢者の介護保険料や自己負担の引き上げなどが予定されている。また、今年の出生数は過去最少を更新し、1947年の統計開始以来、初めて年間80万人を割り込む公算が大きくなっており、「少子化対策」も待ったなしの課題となっている。
安保政策の転換が行なわれれば、今後ますます社会保障費が削減される可能性が強い。国民の命と暮らしを守らずして一体何を守ろうとしているかが問われる安保政策の転換である。
(『週刊金曜日』2022年12月23日号)