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コロナ禍の終わり
2023年1月20日7:15AM
拙作『精神0』のフランス全土での劇場公開が、1月4日からスタートした。それに先立ちパリでレトロスペクティブが開かれ、先月、キャンペーンも兼ねて妻でプロデューサーの柏木規与子と渡仏した。
僕らが最後にヨーロッパへ行ったのは、2020年2月のベルリン国際映画祭である。同映画祭で『精神0』が上映され、フランスの配給会社の目に留まり、劇場公開が決まった。しかし同時に始まったコロナ禍のせいで、フランスでの劇場公開は何度も延期された。そして3年近く経った今、ようやく実現したのである。
久しぶりのフランスは、コロナ禍以前と変わりなかった。水際対策やワクチン接種証明の提示、マスク義務は全廃され、屋外だけでなく、レストランでも、映画館でも、お店でも、マスクをする人はほとんど見られない。パリでの『精神0』の先行上映では、300人入るホールがいっぱいになる大盛況だったが、マスクをする人はほとんどいなかった。リヨンでの先行上映では、チケットが早々に売り切れてしまったので、2スクリーンで上映された。館主に聞いたところ、映画館の観客動員数はすでにコロナ禍以前の水準に戻っているという。
人と人の距離が近く、会えばハグやキスをする習慣も相変わらずで、コロナ禍など遠い昔の出来事のようである。一時は市民の外出を1日1時間に限定する厳しいロックダウン政策を取り、ワクチン接種証明がなければ飲食店にも映画館にも入場できなかった国とは思えない。フランスでは、コロナ禍は終わったと言えるだろう。
とはいえ、それは感染者がいなくなったことを意味しない。弱毒化し、かつてほど怖い病気ではなくなったコロナを、特別扱いしないと政府や人々が決めただけだ。感染よりも感染対策の弊害の方が深刻になりかねないと、多くの人が考えたのだと思う。
ウイルスの性質を考えれば、感染者がいなくなることは将来的にもありえないだろう。したがって、いつか日本の私たちも「コロナの特別視をやめる」と決断しなければ、この国のコロナ禍が終わることもない。少なくとも、何をもってコロナ禍の終わりとするのか、私たちは早急に決めなければならないと思う。
いずれにせよ、人と会って心置きなく交流することの重要さを、改めて実感する旅だった。
(『週刊金曜日』2023年1月13日号)
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