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ドキュメンタリー『地球交響曲』龍村仁監督死去 NHKに残した遺産とは

戸田桂太・元NHKカメラマン|2023年1月26日7:00AM

1月2日に亡くなった龍村仁氏。(『地球交響曲』公式サイトより)

 ドキュメンタリー『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』シリーズで知られる映画監督の龍村仁(たつむら・じん)氏が1月2日に82歳で亡くなった。

 NHKのディレクターだった1973年、ロックグループ「キャロル」を取材したドキュメンタリー番組の評価をめぐって、龍村氏はNHKの上層部と対立し、翌年、長い闘争の果てに解雇された。

 龍村氏には必ずこの「キャロル闘争話」が付きまとうが、ここでは龍村氏がNHKで作った2本の番組のことを書いておこう。

 一つは1971年6月放送の人間列島『18歳男子』。寺山修司に憧れて家出、上京して渋谷のラーメン屋で働く若者〝Bちゃん〟と取材者・龍村氏との私的な交友を捉えて若者の揺れる内面に迫った。独特の取材スタイルと斬新な映像(撮影・松原武司氏)が18歳男子のリアルを描いて魅力的だ。

 この番組は2000年11月に「NHKアーカイブス」で再放送され、現役のディレクターやカメラマンが、初めて出会った龍村作品に目を奪われたものだった。

 もう一つは1972年3月に放送された人間列島『海鳴り』。外房の小さな漁村で、村人たちの現在と村に伝わる伝説を絡めて、現実とも架空の出来事ともつかぬ不思議な時空間を出現させたドキュメンタリーである。

 この場合も取材者の状況設定の巧みさと映像(撮影・葛城哲郎氏)の力が画面に緊張感を生んだ。

 この作品が完全な形で残されていないのは残念だが、2021年3月、NHKの現役の諸君が『海鳴り』についての勉強会を開いた。

 龍村氏がNHKで制作した番組は龍村氏去りし後、後輩たちへの遺産として残されているのだ。

 1992年の1作目以来、9作を数える『地球交響曲』。30年間、長編ドキュメンタリー映画を作り続けたのである。そこに監督としての全エネルギーを注ぎ込まなければできない仕事だった。

(『週刊金曜日』2023年1月20日号)

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