日本学術会議改変に前のめりの岸田政権 「平和と民主主義」をめぐる攻防に
藤森研・ジャーナリスト|2023年1月28日7:00AM
「軍事研究NO」への嫌悪感
その底に流れるのは、「軍事研究NO」という学術会議の基本姿勢に対する自民党や政府の嫌悪感であろう。学術会議は、「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」(1950年)、「軍事目的のための科学研究を行なわない声明」(67年)を積み重ね、2017年の声明でも、この二つの声明を「継承する」と宣言した。
防衛力増強をはかる自民党や政府にとって、それが「目の上のこぶ」に映っているであろうことは、想像に難くない。
後藤茂之内閣府特命担当大臣は今月13日の会見で、法改正について、「軍事研究にシフトするために、第三者委員会で学術会議の独立性に手を入れるという趣旨は全くない」と強調し、第三者委の新設は「会員選考の透明性に関わる部分の提案」だと述べた。
しかし、20年の6人任命拒否では、政府は拒否の理由を「総合的、俯瞰的に」と繰り返すばかりで、今に至るまで「透明性」に背を向けている。6人は安保法制などに反対してきた学者であり、彼らを外す決定に深く関わったのは元公安警察官僚の杉田和博官房副長官(当時)だったとされる。理由をいくら質問されても、「政治的な理由だ」と正直に言うわけにもいかないのだろう。
だが、6人の不利益もさることながら、政権に反対すれば不利益をこうむるかもしれないという、任命拒否が広く学界などに及ぼした萎縮効果は決して小さくない。曖昧にしてよい話ではない。
学術会議問題は民主主義の在り方にも関わる。政府から相対的な独立性を保つ公的な機関を配置することは、権力分立が反射的に国民の自由を担保するように、統治機構の立体化や民主主義の成熟のための知恵である。
この10年間、それらを政権に従う機関に変えてしまおうとする強引な政治が横行した。それぞれ性格は少し違うが、日銀、NHK、内閣法制局。検察人事では失敗したが、今回また学術会議だ。
1月23日からの通常国会では、敵基地攻撃能力や防衛費のGDP比2%へ向けた「安全保障政策の大転換」が議論される。同じ国会に、独立性を持って軍事研究に警鐘を鳴らしてきた学術会議を改変してしまおうとする法案も出てくる。平仄が合っている。
戦後日本の「平和と民主主義」を後退させるか否かが、今国会の攻防でも焦点になる。
(『週刊金曜日』2023年1月27日号)