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G7広島サミットを前に 図書館問題で市民は置き去りか
佐藤和雄・編集部|2023年2月7日9:46AM
今年5月には主要7カ国首脳会議(G7サミット)の会場となり、バイデン米大統領ら各国首脳が集まる広島市。「国際平和文化都市」を標榜する同市だが、文化の中核施設とも言うべき同市中央図書館の移転問題をめぐって揺れ続けていることは、さほど全国に知られていない。
移転に対して図書館と関わりの深い市民団体などから疑問と反対の声が一昨年から上がっており、その勢いが収まる気配はない。市民団体は、広島市議50人(定数54、欠員4)を対象にした公開質問を実施。2月5日に公表した回答結果では移転賛成15人、反対14人、無回答21人だった。少なくとも賛否を表明した議員の間では、ほぼ拮抗しており、市議会の多数が諸手を挙げて賛成という状態からはほど遠い。
広島市の図書館移転問題については『週刊金曜日』2022年5月13日号でも報道したが、ここまでの経緯を簡単に振り返ると――。
広島市が老朽化した中央図書館と関連する施設を、現在立地している中央公園内での集約を検討する方針を示したのは2020年3月のこと。
広島駅前の商業施設へと急転
多くの市民たちは、その方向で進むと感じていたのだが、それが大きく変化したのが2021年9月だった。デパートの福屋などが入っている広島駅前の商業施設「エールエールA館」(以下、A館)を運営する第三セクター「広島駅南口開発株式会社」が、市に中央図書館などをA館に移転することを検討するよう求める要望書を提出したのだ。
その2カ月後の11月には、市側が市議会でA館への移転方針を説明。わずかな期間での大きな方針転換だったことから、「中央図書館のあり方よりも、経営的に順調とは言えない第三セクターへの支援を重視したのでは」との疑いが広がった。
2022年3月には、A館移転のための設計費を盛り込んだ2022年度当初予算が成立したものの、移転先の比較検討や利用者らへの丁寧な説明をするよう求めた付帯決議も採択された。さらに12月には、中央図書館について、A館への移転と現在地での建て替えを比較検討した資料を議会に提出。移転先をA館と結論づけた。
1月12日の記者会見で松井一實(まつい・かずみ)市長は、中央図書館の移転問題についてこう答えている。
「付帯決議に沿った対応ができ、移転先を決定する段階に入ったものと考えている」「速やかに中央図書館の移転整備に係る基本設計・実施設計の予算を執行していきたいというふうに考えている」
さらに1月26日の記者会見では「市民のみならず議会や有識者への説明、理解を得る手続きを経ることができた」と語った。
つまり、駅前商業施設への移転問題はもう決着済みだ、という認識を示したのである。
これに対して「とんでもない!」という声を上げているのが、図書館と密接に関わってきた市民団体だ。
たとえば「こども図書館移転を考える市民の会」(以下、「市民の会」)は昨年12月、駅前商業施設への移転に関する疑問をまとめた文書を公表した。
その主な内容は(1)中央図書館は、「市内図書館などへの図書流通センター」の役割を担っているが、配送車のための駐車スペースが確保されないのではないか。(2)図書館を配置するとされる10 階の真上、11 階には飲食店街が入っており、調理等に火を扱うことから、火災はもとより、火災時のスプリンクラー作動、その他排水管などの要因による水漏れの危険がある。(3)現在の中央図書館には51 台分の無料駐輪場があるが、駅前商業施設で今と同じスペースを確保するのは難しい。(4)屋外環境も視野に入れた読書空間については、明らかに中央公園内のほうが優れている――。