元自衛隊員・五ノ井里奈さんの新たな戦い 元隊員らと国を提訴
三宅勝久・ジャーナリスト|2023年2月12日7:00AM
内閣府の意識調査では、回答者の約9割が自衛隊に「よい印象」を持っていると答えたとされる。しかし自衛隊経験者に同じ調査をすれば結果は大きく異なるだろう。
1月30日、元1等陸士の女性・五ノ井里奈(ごのい・りな)さんが、先輩の男性陸曹5人(昨年12月に懲戒免職)から性的暴行やセクハラ行為を受け、多大な苦痛を受けたとして、5人と国を相手どり、不法行為や国賠法(安全配慮義務違反)に基づく慰謝料など計750万円の支払いを求める民事訴訟を横浜地裁に起こした(代理人は矢田次男弁護士)。性暴力と隠蔽に満ちた自衛隊の「日常」を事件は生々しく浮き彫りにしている。
五ノ井さんは、陸上自衛隊郡山駐屯地に所属していた2021年当時、先輩らから、胸を揉まれる、キスをされるなどの性的嫌がらせを頻繁に受けた。野外訓練中の8月3日夜には、酒盛りをしていた隊員らから格闘技の技で身動きできなくされ、代わり代わりに体の上に覆い被さって腰を押しつけられる性的暴行の被害に遭った。
被害を申告したが対応は鈍かった。
部隊は調査らしい調査をせず黙殺。警務隊も立件意欲に乏しかったとみられ、福島地検郡山支部は不起訴処分とする。事件当時周囲には十数人の男性隊員がおり、笑いながら見物していたが、彼らは一人残らず口をつぐんだ。五ノ井さんは、被害が今後も続くことが予想されたためやむなく退職。泣き寝入りするだろう――加害者も自衛隊もそうタカを括っていたのかもしれない。だとすれば目論見は外れた。
22年6月、五ノ井さんは、インターネットを介して被害内容を実名で告発する。10万筆を超える支援の署名がたちまち集まった。それを携えて防衛省に調査を申し入れた。大きな扱いで報道された。
この期に及んで防衛省はようやく腰を上げた。事件の再調査を指示する一方で全部隊対象の特別防衛監察を実施する。そしてまもなく、五ノ井さんの申告内容が事実であることを認め、5人の加害者を懲戒免職処分にした。また、郡山検察審査会は不起訴不当の議決を行ない、再捜査が始まった。