元自衛隊員・五ノ井里奈さんの新たな戦い 元隊員らと国を提訴
三宅勝久・ジャーナリスト|2023年2月12日7:00AM
隊内の悲惨な実態表面化
提訴後の記者会見で五ノ井さんは「自衛隊は好きなので裁判はしたくなかった。しかし加害者は反省しておらず、ハラスメント根絶はできないと感じた」と語った。
反響の大きさは、自衛隊内部での性的被害がそれだけ深刻であることを意味している。五ノ井さんがインターネットを使ってアンケートをしたところ、短期間に140件以上の被害が寄せられた。その内容(以下)がすさまじい。
▼レントゲン写真(乳房や乳首がはっきりわかる)を皆でまわして眺める ▼飲み会で体を触ったり、男性隊員の局部にキスを強要 ▼宴会で野球拳に参加させられ、服を脱ぐのを拒むと殴られた ▼女性隊員の頭の上に男性隊員が陰部を乗せ「ちょんまげ」と言ってふざける ▼強姦された――。
こうした惨状を同省が今まで知らなかったとは思えない。
1998年、当時の防衛庁はセクハラに関するアンケート調査(男性・女性各1000人)を初めて行なっている。結果、女性隊員の18・7%が「性的関係の強要」を受けたと回答、「強姦・暴行(未遂)」が7・4%。「わざと触る」被害は59・8%にのぼった。男性隊員の被害も判明した。「性的関係の強要」は1・4%、「強姦・暴行(未遂)」0・7%。
2006年、北海道の航空自衛隊レーダー基地で空士長の女性が先輩の男性3曹から強かんされそうになった事件が露呈。被害を訴えると上司ら周囲から逆に陰湿なパワハラを受けるというお決まりの展開となった。被害者は国賠訴訟を起こし、国側は敗訴した。それでもなお解決への取り組みは鈍く、今日に至っている。
現在、自衛隊は深刻な隊員不足に直面している。中途退職者は年間約5000人で、新規採用者の約3分の1に達する。劣悪な職場環境に多くの隊員らは疲れ切っている。元1等陸士の渾身の訴えに防衛省や国はどう向き合うのか。
(『週刊金曜日』2023年2月10日号)