宮台真司さんが襲撃事件後初の公開講演会で語った言葉
岩本太郎・編集部|2023年2月14日7:00AM
監視社会強化への懸念
襲撃事件については今回の特別セミナーのテーマとは直接関係がないため、講演中にはあまり言及されることはなかった。終演後にメディアを対象に開かれた会見で宮台さんは「この事件についての個別の筋読みはしません」としたうえで、まず事件直後からネット上に溢れ返った事件関連の言説に対しては「この種の襲撃事件には個人標的型、条件付きの無差別型、単純な無差別型という三つの類型がありますが、そこを理解したうえで反応しているとは思えない」と疑義を表明。
さらに「事件をきっかけに監視カメラなどによる監視強化が進むなら単純すぎて話にならない」と、セキュリティ意識が過剰に高まることによって大学を含む公共空間がますます窮屈な方向へ進みかねないとの懸念も語った。
事件で負った傷に関しては順調に回復してきてはいるものの、なお階段の歩行に支障があるとのことだったが「襲撃により怖くなって安全地帯にとどまってしまってはならない。それは僕個人だけではなくマスメディアを含めた日本の言論空間、公共性に関わる問題だ」との決意も述べた。
宮台さんが言う“つまらなさ”はメディアの現状にも指摘できるのではないか。そう考えた筆者は質疑応答の際に質問した。「統一教会問題に関する宮台さんの発言を、『朝日新聞』がインタビューから一部削除した件(昨年7月)も“つまらない”話ですよね?」。
「すごく単純なメカニズムでね、『朝日』だけをディスるつもりはありませんが」と苦笑しながら前置きした宮台さんは、その答えに代えてか「鈴木邦男さん(作家。1月11日死去)の話をしましょう」と、次のように語り出した。
「鈴木さんは右翼の概念の本質を見抜いていた。かりに豊かで平等な社会になったとしても公共精神を欠いたまま、それぞれの所属集団に過剰適応し、外に出て生きられない者は決して幸せになれない」
この2日後、宮台さんを襲ったとされる41歳の男性が、事件から約2週間後に死亡していたことが報じられた。宮台さんは同日配信の「ビデオニュース・ドットコム」で「動機が分からないので釈然としない」と複雑な心境を語った。
(『週刊金曜日』2023年2月10日号)