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ボクシング王者らの叫び 「大先輩は無罪です!」

粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年2月19日7:00AM

「ボクサーくずれ」への偏見か

 袴田巖さんはアマチュア時代に国体に出場。プロ転向後はフェザー級の国内ランキング6位に入ったが、体調を崩して早く引退した。「根性があり打たれ強かったが、性格が優しくてKOチャンスに相手を追い込めず、逆転されるなど損していた」と当時は評された。引退後は清水市(当時)でバーを経営したが失敗。味噌製造会社の従業員として働いていた時、袴田さんを可愛がっていた同社の橋本藤雄専務一家4人が殺された。

 新田さんは「袴田さんはいつ死刑台に上がれと言われるかわからない恐怖で拘禁症となり、普通の会話ができなくなった。でも面会で僕がフックの打ち方などの話をすると会話がちゃんとできたので、会う時はボクシングの話をするように努めました」と振り返る。

「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」(楳田民夫会長)の山崎俊樹事務局長は「袴田さんは清水の串田ジムからボクシングを始めた。引退後も串田(昇)会長に『復活してボクシングやりたい』と話していたそうです。釈放後、かつてジムがあったあたりを一生懸命歩いていた。ボクシングが彼の人生だった」と紹介した。

 スポーツ団体は通常、不利益を被ることを恐れて権力に弓を引くのは控えるものだが、日本プロボクシング協会は早くから袴田さんを支援。ファイティング原田さん(79歳)、具志堅用高さん(67歳)、輪島功一さん(79歳)ら往年の名ボクサーもリング上から袴田さんの無実を訴えた。第2次再審請求が東京高裁で棄却された18年6月に会見で怒りを述べた輪島さんは昨年、筆者の取材に「『ボクシングやってた男なら人を殺すんか』という気持ちだった」と話した。

 1960年代はボクサーへの差別意識も強く、当時の静岡県警の捜査報告書にも「ボクサーくずれ」と記載されていた。巖さんの姉のひで子さん(90歳)は「巖が柔道か剣道の選手だったら逮捕なんてされなかったのでは」と話した。6日の東京高裁前ではボクサーたちの熱意に打たれて、記者時代にボクシングの取材をしていた筆者までがマイクを握っていた。

(『週刊金曜日』2023年2月17日号)

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