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「普通の暮らしがしたい」  仮放免者の在留資格めぐる訴訟で日本人配偶者も原告に

樫田秀樹・ジャーナリスト|2023年3月6日7:00AM

ともに原告として裁判を起こしたナビンさん(左)となおみさん。(撮影/樫田秀樹)

 2月21日。難民申請が不許可となり仮放免者として暮らすスリランカ人のナビンさんと日本人配偶者の久保なおみさんが、不許可の取り消しを求めて東京地裁で起こした訴訟の第1回口頭弁論で意見陳述に立った。在留資格が付与されない本人に加え、日本人配偶者も原告になるのは異例のことだ。

 ナビンさんは父の反体制政治運動を支持していたが、2003年4月、複数の暴漢に襲われ腕を骨折。これを機に04年12月、留学ビザを携え日本語学校の留学生として来日することで危険から逃れた。

 だが、05年夏頃に学校が倒産。校長と経営者は雲隠れし、学生寮にも住めなくなったナビンさんは入管に「どうしたら」と相談した。だが東京入管は「管轄外」として取り合わず、それどころか05年12月にビザが失効してオーバーステイで生きるしかなかったナビンさんを「在留資格がない」と13年に収容。以後、ナビンさんは収容と仮放免を繰り返すことになる。05年からナビンさんと付き合っていたなおみさんは「もし入管が05年に真摯に対応していれば、ナビンの今は違っていたはず」と振り返る。

 なおみさんは、ナビンさんと知り合った時に幼い2人の子どもを育てていたが、16年に育児に手がかからなくなると入籍。当時は「正式な国際結婚なら3年以内に配偶者ビザが出るはず」と考えたが、事態は逆に動く。入籍から4カ月後の17年2月、ナビンさんが仮放免の更新手続きで入管に出頭すると、その数年前に申請した難民認定申請が不許可となり、同時に収容されたのだ。

 今回夫妻が提訴を決めた最大要因は、ナビンさんが心のバランスを崩したことだ。ナビンさんは現在二度目の難民認定申請中だが、その結果がいつ出るかわからず、繰り返される収容と仮放免とに将来の展望を失い鬱病になったのだ。だが入管は2人の間に「実子がいない」との理由で在留資格を付与しない。裁判は現状を変えるための最終手段だった。

「普通の暮らしがしたい」

 2月21日の第1回口頭弁論でナビンさんはこう意見陳述した。

「仮放免の私は働くことが許されません。お金がなく、ジュース1本買うのもなおみに頼るしかない。移動の自由もなく、入管の許可なしに暮らしている埼玉から東京に行くこともできない。私は今43歳。このままおじいさんになるまでこの状態が続くのは辛いです」

 なおみさんはこう訴えた。

「入管は『実子がいれば』と言いますが、私の年齢では不可能です。私たちは今、19歳の二男と母と4人で良好な関係で暮らしています。実子はいなくても家族を築いているのです。夫が通うメンタルクリニックの医師には『一番の薬は在留資格を得ての普通の暮らし』と言われます。夫が毎日苦しんでいる姿を見ての生活はとても辛い。どうぞ普通の暮らしができるように在留資格を認めてください」

 弁論後、傍聴に来ていたなおみさんの二男の勇人さんに話を聞くと「僕を本当の息子のようにかわいがってくれる、すっごくいい人」とナビンさんを評価し、なおみさんの母も「とても優しくて穏やかな人」と今後も家族でナビンさんを支えると話した。家族が在留資格に寄せる思いは切実だ。

 ナビンさんは、心の不調からこれまで手首を切るなど数回の自殺未遂を起こしている。ある時は「裸足のまま自転車に乗って車道の真ん中を走っていた」(勇人さん)こともあり、最近では自宅にひきこもることが多いという。

「子どもがいるいないの基準で私たちの人生が決められるのは納得できない。一つだけ確かなのは、私たちに結婚の実態があることです。それで認めてほしいだけなんです」

 訴訟を担当する浦城知子弁護士は「被告の国は、なおみさんに原告適格がないと主張します。でもこの問題は在留資格のない当事者だけではなく、その家族にも及ぶ問題である以上、なおみさんも原告になったのです」と家族の問題として今後の裁判を闘うという。

 次回の口頭弁論は4月11日午後2時。

(『週刊金曜日』2023年3月3日号)

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