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『産経新聞』のずさんな取材が断罪された名誉毀損訴訟判決

安田浩一・ジャーナリスト|2023年3月12日7:00AM

判決報告会で三線を手に「豊年の歌」を唄う石嶺香織さん。「ゆやなうれ(世や直れ)」の想いを込めたという。(撮影/小林和子)

「基本的な取材を欠いた不十分なもの」──。『産経新聞』の報道姿勢に、裁判所も厳しい判断を示すしかなかった。

 沖縄県宮古島市の元市議・石嶺香織(いしみね・かおり)さんが『産経新聞』記事で名誉を傷つけられたとして産経新聞社に記事の削除と損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(古庄研裁判長)は2月28日、記事は誤りと認め、慰謝料11万円の支払いと削除を命じる判決を言い渡した。

 問題となった記事が掲載されたのは2017年3月22日。同社のニュースサイトで「自衛隊差別発言の石嶺香織・宮古島市議、当選後に月収制限超える県営団地に入居」なる見出しを付け、当時市議だった石嶺さんが県営住宅に不正入居したかのように報じた。

 安定した収入を約束された市議が基準に反して県営住宅に入居、しかも仲介業者に「住む所がないので1年だけ入居させてほしい」と懇願したという内容である。記事から浮かび上がってくるのは、身勝手で公正さを欠いた石嶺さんの姿だった。

 この記事によって、ネット上では「(石嶺さんを)詐欺罪で逮捕しろ」「議員辞職すべきだ」「売国奴」といった書き込みが相次いだ。記事掲載の翌日には、石嶺さんが借りていた駐車場に、鉄柱の付いたコンクリートブロックが置かれ、車の出入りができなくなるといったイタズラ行為もあった。

 一貫して記事が「デタラメ」であることを訴え続けていた石嶺さんは20年9月、同社を提訴した。

 裁判の過程で明らかとなったのは、当該記事を書いた同社・半沢尚久(はんざわ・なおひさ)記者(記事執筆当時は那覇支局長)の杜撰としか言いようのない取材姿勢である。

 まず、当時の石嶺さんは県営住宅の入居資格を十分に満たしており、あたかも不正を働いたかのような記事内容は半澤記者の思い込みによるものだった。

 また、仲介業者に「1年だけでも」と懇願した件も、石嶺さんは「記者の創作」だとして否定。実際、筆者は宮古島でこの業者に取材したが、担当者もまた記事内容に「そんな事実はない」と答えた。

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