『産経新聞』のずさんな取材が断罪された名誉毀損訴訟判決
安田浩一・ジャーナリスト|2023年3月12日7:00AM
記者はまるで取材せず
さらに──半澤記者は石嶺さんの「不正」をにおわせながら、石嶺さん本人にはまったく取材していなかったのである。昨年9月13日、証人として出廷した半澤記者は、石嶺さんに取材しなかった理由を次のように述べている。
「出張経費に余裕がなかった」「石嶺さんの連絡先がわからなかった」。さらに取材の不十分さを指摘されると「限界というものがある」などと答えたのである。
現職議員の連絡先を調べることのできない新聞記者が存在するのだ。そのうえ私が裁判所内で直接取材を求めると「そんな取材するのか」と激怒したのであるから、ますます理解不能である。
古庄裁判長は判決で、石嶺さんは入居資格を満たしていたと指摘。そのうえで「(記事は)基本的な取材事項の取材を欠いた不十分なもの」として、石嶺さんの「社会的評価の低下及び精神的苦痛の程度は大きい」と認めた。
「記事がデマだとはっきりし、ほっとした」。判決を受け、石嶺さんはそう前置きしたうえで次のように話した。
「『産経新聞』がジャーナリズムのプライドをなげうって事実と異なるデマ記事を書いてまでも塞ぎたかった声は何でしょうか。それは中国への脅威を煽り、軍事費を増大し、琉球弧の島々に軍事基地を造り国民を戦争に駆り立てていく、この今につながる流れを止める声を塞ぎたかったのではないかと思っています」
宮古島の自衛隊配備に反対する石嶺さんを数度にわたり批判してきたのが『産経新聞』だった。しかも同紙は沖縄関連記事においてはこれまでにも「誤報」や「名誉毀損記事」が問題視され、いずれも不十分な取材などを理由に裁判で敗訴している。あぶりだされたのは沖縄に対する同紙の差別と偏見ではなかったか。
ちなみに私の取材に対し同社広報部は「判決内容を精査し、今後の対応を検討します」と回答した。
(『週刊金曜日』2023年3月10日号)