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賃下げ社会の崖を示す 二つの関生事件判決

竹信 三恵子|2023年3月24日2:52PM

回復か忘却かの崖っぷち

 産別労組がこれほど日本社会で異端とされたのは、戦前の治安警察法下、企業別労組のストは認め産業別労組のそれは処罰する、とされてからだ。当時、労組を認めなければ国際連盟に加入できない事態に直面した政府が、会社の秩序の下に置きやすい企業別労組のストだけを認めてつじつまを合わせようとしたからだ。

 そうした労組観が、国際基準にもとづいて産別労組を認めた新憲法の下でも残り、かつじわじわと強化され続け、賃上げ圧力が弱い社会につながった。

 だが、6日の「和歌山広域協組事件」での大阪高裁判決は、産別労組としての関生支部を認め、一審を覆して全員無罪とした。

 この事件は、経営側が元暴力団関係者を関生支部の事務所近辺に差し向けたことに対し組合員らが経営側の事務所で抗議や謝罪を求めたことを「強要未遂」とするなど、一審は有罪判決だった。

 これも、労働三権が保障されるのは「労働関係の当事者」であり、労組員がいない会社に対する活動は対象外という、企業別労組が前提の判断にもとづいている。

 だが高裁判決では、関生支部は産別労組であり、業界内の企業の経営者や団体とは労働関係上の当事者に当たるとして、その活動の正当性を認めた。

 二つの判決は、下請け化や非正規化を超えて賃金を上げられる労組を回復するか、それを忘却の彼方に追いやるかの崖っぷちに私たちが立っていることを示している。それは、日本が賃下げ社会を抜け出せるかの崖でもある。

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たけのぶ みえこ・ジャーナリスト。和光大学名誉教授。著書に『賃金破壊 労働運動を「犯罪」にする国』(旬報社)、『ルポ 雇用劣化不況』(岩波新書)など。

(『週刊金曜日』2023年3月24日号)

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