メディアへの政治介入
中島 岳志|2023年3月31日7:00AM
立憲民主党の小西洋之参議院議員が、安倍政権下で作成された放送法の政治的公平性をめぐる議論の内部文書を公表した。これによって2014年から15年に、いかなる駆け引きがあったのかが見えてきた。
まず押さえておくべきは、14年におきた『朝日新聞』をめぐる騒動だ。この年、朝日新聞社は、故・吉田清治氏による「慰安婦」に関する証言記事を取り消すとともに、吉田調書報道の取り消し、池上彰氏の連載掲載見合わせの謝罪をした。木村伊量社長(当時)が謝罪会見を行ない、右派政治家による『朝日新聞』バッシングが加速した。
14年11月18日に安倍晋三首相が衆議院の解散を表明すると、同月20日に自民党は各テレビ局に「公平中立」などを求める要望書を送り、牽制した。この選挙をめぐっては、「アベノミクスの恩恵が富裕層にしか及んでいないかのような報道をした」として、自民党がテレビ朝日「報道ステーション」を名指しで批判した。また、TBS「NEWS23」にも、安倍首相出演時に、アベノミクスに批判的な街の声ばかりが紹介されているとして、指導の文書が送られた。今回公開された行政文書は、この時期に礒崎陽輔首相補佐官(当時)が総務省に放送法をめぐる見解を迫ったところから始まる。
礒崎補佐官の言動はエスカレートしていき、15年2月24日には「この件は俺と総理が二人で決める話」などと、総務省の担当局長を恫喝している。ここから3月5日の安倍首相への「総理レク」に到り、安倍首相が礒崎補佐官に同調する発言を行なった。そして放送法の解釈を変更する高市早苗総務大臣(当時)の答弁につながっていった。
私は15年4月から「報道ステーション」のレギュラーコメンテーターを1年務めた。それ以前は数カ月に一度、金曜日のゲストコメンテーターとして出演していたが、3月2日に担当者から電話があり、急遽、週一度のレギュラーになった。「報道ステーション」の月曜日から木曜日のコメンテーターは、歴代、朝日新聞社の社員が務めていたため、いぶかしく思い尋ねると、朝日新聞社社員は週1回の出演になると言われた。
この時、テレビ朝日の中で何か起きていたのか。番組出演時に、私が発言を規制されたことはなかったが、見えないところで起きていたことはメディア史上の重要なポイントとなるため、真相を知りたい。私も関係者に聞いてみたいと思う。
(『週刊金曜日』2023年3月24日号)