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袴田さん再審無罪へ

宇都宮 健児|2023年4月7日7:00AM

 東京高検は3月20日、強盗殺人罪などで死刑が確定していた袴田巖さんの再審開始を認めた3月13日の東京高裁決定を受け入れ、最高裁に特別抗告をしないと発表した。これで再審開始決定が確定し、静岡地裁で開かれる再審公判で袴田さんが再審無罪となる公算が強くなった。

 袴田さんの第2次再審請求は2008年に始まり、静岡地裁が14年3月再審開始と死刑の執行停止、袴田さんの釈放を認める決定を出したが、検察側が即時抗告し、東京高裁が18年6月に再審開始決定を取り消した。これに対し、弁護側が特別抗告し、20年12月最高裁が審理のやり直しを命じて東京高裁に差し戻していた。

 差し戻し審の東京高裁で争点になったのは、犯行時に犯人が着ていたとされた「5点の衣類」についた血痕の色であった。衣類は事件発生から1年2カ月後に現場近くのみそ工場のタンクで見つかり、当時の実況見分調書では、血痕は「濃赤色」などと記されていた。弁護側は、血痕のみそ漬け実験を行ない、1年後なら黒く変色し、赤みは消えると主張し、主張を補強する法医学者の鑑定書を提出していた。

 3月13日の東京高裁決定は、弁護側の実験結果を「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と判断した上で、「事件から相当期間経過後に第三者がみそタンク内に隠匿した可能性が否定できない。第三者は捜査機関の可能性が極めて高い」と指摘している。

 袴田さんは1966年8月に強盗殺人容疑などで逮捕され、68年9月静岡地裁で死刑判決を受け、80年11月最高裁で上告棄却となり、翌月、死刑判決が確定していた。

 袴田さんは現在87歳。約48年間にわたる拘束、死刑への恐怖などから今も拘禁症状で苦しんでいる。もし、検察側が2014年の静岡地裁の再審開始決定に対し即時抗告をしなければ、袴田さんはもっと早く再審無罪となっていた可能性が高い。

 犠牲者やその家族の大切な人生を奪い去る冤罪は、国家による最大の人権侵害である。一刻も早く袴田さんの再審公判を開き、無罪を言い渡さないと、袴田さんに対する人権侵害が続くことになる。

 また、袴田さんのような冤罪犠牲者を早期に救済するためにも、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、再審請求審における証拠の全面開示などを柱とする再審法の早期改正が求められている。

(『週刊金曜日』2023年3月31日号)

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