性的少数者差別も禁止 相模原市の審議会が画期的な条例案を答申
師岡康子・弁護士|2023年4月8日9:42AM
包括的な差別禁止法制度のモデルに
川崎市条例では罰則付きヘイトスピーチ禁止規定の対象を外国ルーツに限定しているが、相模原市の今回の答申では、救済対象を人種・民族差別の被害者から性的少数者まで含めており、これも公的機関による日本で初めての提案であり、画期的だ。これらのヘイトスピーチが蔓延している現状への実効性ある防止策となるだろう。
さらには差別事件が発生した直後に、首長など公的機関が明確に非難することは、差別被害拡大を防止する啓発活動として大きな意義がある。やまゆり園事件報道の直後に、ネット上で「犯人は在日」との差別デマが大量に拡散され、在日コリアン市民はヘイトスピーチ、ヘイトクライムの被害者になる恐怖にさらされた。欧米の多くの国では、大統領や地方の首長が速やかに差別非難声明を出すことが当たり前となっている。
「人権委員会」は、市長に非難声明を建議できるなど、条例が「絵に描いた餅」にとどまる危険性を回避できる歯止めとなる。その意味でも、条例運用の核となる重要な機関である。
すでに世界の過半数の国に差別禁止法とセットで整備されている、行政から独立した国内人権機関に類似する機関といえる。日本はこれまで国連人権関連機関から繰り返し設置を勧告され、直近では今年1月の国連の普遍的定期的審査においても29カ国から設置を勧告されており、相模原市の条例で実現する意義も大きい。
5月のG7開催を控え、日本には差別禁止法がないなど国際人権基準からかけ離れた状況であることが改めて注目されている。今回の答申が求める条例は、以上のように国際人権諸条約上の義務に合致する内容であり、今求められている包括的な差別禁止法制度のモデルとなる。妨害も起きている中、実際に答申内容を盛り込んだ条例が実現するためには相模原市を応援することが重要だ(※)。「相模原モデル」の条例が広がれば、国での包括的差別禁止法制定への大きな力となる。
(『週刊金曜日』2023年4月7日号)
※相模原市公式サイトの意見募集ページ「わたしの提案」
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/shisei/1026875/shisei_opinion/1026888/1011097.html