「生き方がしんどくなって」
爆発物事件の容疑者を取り押さえた漁師の言葉
本田雅和・編集部|2023年4月24日7:00AM
「僕の頭上を越えて岸田さんの足元に落ちた瞬間、爆弾だと思うたよ。落ちた時に火みたいのが見えて白い煙も少し出とった」
4月15日午前11時半ごろ、和歌山市・雑賀崎漁港で、衆院和歌山1区補欠選挙の応援演説に入ろうとしていた岸田文雄首相に向けて発煙筒大の筒状爆発物が投げられ、地面に落ちたあと、1分ほどして爆発。投げた男は、近くにいた雑賀崎漁協組合員3人とSP(要人警護警察官)1人が飛びかかって押さえ込み、威力業務妨害容疑で現行犯逮捕された。
その木村隆二容疑者(24歳)を現場で取り押さえた3人の漁師の一人、池田勝彦さん(62歳)に、筆者は電話でインタビューし、当時の様子など迫真の証言を聞き出すことができた。
漁港のすぐそばに住む池田さんは、岸田首相の遊説があるということで当日は午前9時には現場に到着していた。同僚らは10時半に集合がかけられていたが、漁協元理事の池田さんは首相演説終了後の「ガンバロー」コールの唱和要員8人の一人として聴衆の最前列に立つことを要請されていた。
午前11時17分に到着した岸田首相は、支持者らと歓談しながら地元でとれた真鯛やエビの刺身などを試食していたが、予定されていた演説場所の5メートル手前に陣取っていた池田さんからは、その様子はまったく見えず、首相がいよいよ演説場所に近づいた時、爆発物らしきものが後ろから飛んできた。
SPの一人がすぐに気づいてカバンのようなもので払い落とす様子が見え、その直後、池田さんの目の前に「カラン、コロン」と筒状のものが転がってきた。そのSPが盾のようにしたカバンで筒を払ったのと、地面に落ちた筒を足で蹴り出したのは、ほぼ同時のようにも見えた。
9カ月前に奈良市で起きた安倍晋三元首相への銃撃事件が一瞬、頭をよぎった池田さんが、後ずさりしながら「逃げろ」と叫んで振り返ると、2発目があるかのような素振りを見せていた木村容疑者を近くの同僚2人が「こいつだ」などと叫んで飛びかかって倒していた。それを見た池田さんとSP1人も飛びかかった。
周囲で「キャー」などという悲鳴が飛び交う中、池田さんは頭の方を押さえつける役回りになった。容疑者はまだ足をバタバタさせており、さらにSP3人が加勢に入って押さえつけた後、「SPから、僕ら素人は手を放せ、離れろ、と言われてどかされた」という。