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徴用工問題 韓国政府解決策では新たな法的争点が加わり、長い目でみれば日韓関係を悪化させる  

山本 晴太|2023年5月18日7:00AM

「財団による供託は認められない?」

 ところで、一般には弁済を受領しない債権者の権利は弁済金を法務局に預けて債権者に通知する「供託」により消滅させることができる。しかし、韓国民法は「当事者の意思表示により第三者の弁済を許容しない場合」には第三者弁済はできないと規定している。したがって解決案を拒否する被害者の債権を財団が供託によって消滅させることはできない。

 そこで、韓国の与党筋は「併存的債務引受」を検討していると言われる。これは、加害企業(債務者)と財団(引受人)が契約し、加害企業の債務を存続させたまま財団も同じ債務を負担するというもので、財団が加害企業の連帯保証人になるのとほぼ同じである。

 併存的債務引受の成立には債権者の承諾は必要ないという13年の大法院判例があり、被害者(債権者)が拒否しても併存的債務引受をすれば財団が債務者として供託して被害者の請求権を消滅させることができるというのである。

 しかし、契約の効力は契約当事者に対してしか及ばないのが原則であり、加害企業と財団の契約に被害者が拘束されるとするのは無理がある。しかも日韓の民法がともに贈与は受ける者の承諾がなければ効力が発生しないと定めているように、当事者の意思に反してまで利益を押し付けることはできないというのが民法の基本的な考え方である。

2013年の大法院判例も債権者の受益の意思表示(承諾)は併存的債務引受の「成立の要件ではなく、債権者が引受人に対して債権を取得する要件である」としているのであり、債権者に弁済を押し付けることまで認めているわけではない。

 また韓国では、慰謝料は加害者が支払わなければ目的を達成できないので、債務の性質上第三者弁済や債務引受はできないという見解も主張されている。

 韓国では謝罪広告掲載命令が違憲とされており、慰謝料請求が精神的被害回復のための唯一の法的救済手段なのである。いずれにせよ、併存的債務引受による供託の効力を韓国の裁判所が認める可能性は低いと思われる。

 このように「解決案」は被害者を満足させるという意味でも、被害者の訴えを抹殺するという意味でも紛争を終息させるものではない。新たな法的争点が加わり、紛争は複雑化し、長い目でみれば日韓関係を悪化させることになるだろう。

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やまもと せいた・弁護士。共著に『徴用工裁判と日韓請求権協定  韓国大法院判決を読み解く』(2019年、現代人文社)など。

(『週刊金曜日』2023年4月14日号の記事を一部修正)

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