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PFASと日米地位協定

中島 岳志|2023年5月19日7:00AM

 PFAS(有機フッ素化合物)に注目が集まっている。これは耐熱性に優れた性質を持ち、水や油をはじくことから、フライパンなどの調理器具のコーティングや防水スプレー、泡消火剤などに使われてきた。しかし、PFASは「フォーエバー・ケミカル」(永遠の化学物質)と呼ばれ、自然界では、なかなか分解されない。人体に取り込まれると、血液中に蓄積し、健康被害があるとされる。母から胎児へ受け渡されることから、出生体重の減少にかかわるとする研究結果もあり、影響が懸念される。

 問題になっているのは、PFASの一種のPFOSとPFOAで、現在は製造・輸入が禁止されている。しかし、過去に環境に入り込んだ場合はなかなか除去できない。

 ルートはいくつか考えられる、PFASを扱っていた工場やごみ処理場が汚染源となっていることがあるが、他にも軍事基地や空港から流れ出ている場合もある。

 軍事基地では、泡消火剤を使った訓練が頻繁に行なわれ、そこに含まれるPFASが地下水などを汚染するのだ。米国では1970年代に問題が指摘され、90年代には有害性が認められたことから、いくつかの対策がとられてきた。しかし、日本の米軍基地では流出が続き、沖縄の嘉手納基地周辺では、井戸水や湧き水に含まれるPFASが基準値を超える事態が問題になってきた。

 今、注目されているのが東京・多摩地区だ。井戸水から基準値を超える濃度が検出されたほか、血液検査をすると約85パーセントの住民が米国で定める血中濃度の指標値を上回ったという。

 多摩地区では井戸水も水道水に使われてきたため、水を介して人体に取り込まれた可能性が高い。汚染源とみられるのが横田基地で、泡消火剤を使用した訓練が行なわれてきた。

 しかし、汚染源を突き止めることができていない。なぜなら、日米地位協定によって本格的な立ち入り検査が拒絶されているからだ。米軍基地問題は、首都圏の住民の命がかかわる問題でもあることを直視しなければならない。

 地下水が動く速度は驚くほどゆっくりで、今後、多摩地区を長い年月をかけて流れていくことになる。現在、国分寺市付近の井戸水から高濃度のPFASが検出されているが、その流れがどんどんと東京の中心地に向かっているのだ。東京都民は、今こそ沖縄とともに声を上げ、日米安保問題を住民目線で議論する必要がある。

(『週刊金曜日』2023年5月12日号)

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