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連載 ”日の丸ヤミ金”奨学金 第15回
違法行為の温床、裁判で露見
三宅勝久・ジャーナリスト|2023年5月30日4:59PM
「記事は失礼」怒る弁護士
さて、前回まで報告した、支援機構が元利用者の男性Aさんに「奨学金ローン」の残債務全額(約400万円。うち期限未到来分元本約200万円)の一括弁済を求めた訴訟の続報である。12月6日、東京地裁立川支部で弁論準備手続きが行なわれた。取材に赴いた筆者は開始直前に興味深い光景を目にした。5階のロビーで待っていると、支援機構代理人の宇都宮隆展弁護士が被告のAさんに苦情を言うのが聞こえた。
宇都宮 『週刊金曜日』に記事を書かせたでしょう。あの記事は失礼です。
A 僕じゃないですよ。
宇都宮 あれは困る。
A 僕じゃない。そこに記者がいるから、彼に言ったらどうですか。
宇都宮 いや、困る……。
本連載に対する苦情だ。前々回の記事で、9月の同支部での閉廷後に宇都宮氏がAさんに「私は上(主任弁護士の熊谷信太郎氏と思われる)に言われたことやっているだけですから。ガキの使いみたいなもんですから」と言った場面を描写した。それが気に障ったようだ。
だがその不満をAさんにぶつけるのは筋がちがう。クレームを引き取ろうと筆者は待っていたが、手続きが終わると、宇都宮氏は足早に去った。
訴訟では支援機構側が日本育英会法施行令6条3項(「支払能力」を有していることを繰り上げ一括請求の要件に求めている)を無視して一括請求をしても構わないとの驚愕の法解釈を持ち出し、それを否定するAさんとの間で争いになっている。この日の手続きでは、この「解釈」を正当化する根拠として札幌高裁の判決文(冨田一彦裁判長)が証拠提出された。
筆者は判決文を一見して驚いた。判決日と事件番号が黒塗りされている。法解釈の証拠で判決文を出す時に事件番号や判決日を消す例を筆者は見たことがない。どんな裁判か、主張立証はどうなされたのか、まるで確認のしようがない。極端な話、内容が真正なのかどうかを疑う余地すらある。ともあれこの謎の判決から問題の箇所を引用する。
〈(育英会法施行令6条3項と育英会業務方法書14条4項の関係について)一括請求の要件について、前者が「学資金の貸与を受けた者が、支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったとき」と定めるのに対し、後者は「奨学生であった者が、割賦金の返還を怠ったと認められるとき」と定める。前者が支払能力のあることや怠りの著しさを必要とする一方、後者も怠りが認められることを必要とすることなどに照らすと、両者は、それぞれ異なる要件・効果を定めるものと解される〉
〈支援機構は、事案に応じ、上記条項のいずれかを選択し、一括請求の根拠とすることができると解される。(中略)育英会法は、学資金の返還の期限及び返還の方法は政令で定めるとし(23条1項)、これを受けて、育英会法施行令が定められている。/他方、育英会法は、育英会は業務開始の際、業務方法書を作成しなければならないとし(25条1項)、その記載すべき事項には学資金の返還の期限及び返還の方法並びに返還の期限の猶予に関する事項が含まれ、これを受けて、育英会業務方法書が作成されている〉
〈育英会法施行令と育英会業務方法書は、いずれも育英会法に基づいているものの、その法的根拠はいわば別系統であり、優先劣後関係は認められない。育英会法施行令6条3項が一種の制裁として期限の利益喪失について定めているとしても、同様の見地から業務方法書第14条4項(「支払能力」不要=筆者注)を解釈しなければならないとはいえない〉
なるほど、施行令は無視できるとする支援機構の言い分そのままだ。期限の利益喪失について、ある時は「支払能力」が要件になり、ある時は不要となる。同じ法令の中に二重規準があってよいのだと言っている。なぜそう解釈できるのか、証拠に基づいた説明はない。
貸金業や銀行の貸付契約ではありえないことだ。謎の冨田判決は正しいのか。(次回につづく)
(『週刊金曜日』2022年12月23日号)
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