判決に「差別」を書き込めるか 民団徳島県本部脅迫事件が結審
石橋学・『神奈川新聞』記者|2023年6月1日7:00AM
「裁判官には今度こそ逃げないでほしい」
筆者は京都朝鮮第一初級学校襲撃事件をはじめ、ヘイトクライムやヘイトスピーチをめぐる刑事・民事裁判を取材してきた。人種差別禁止法がないため、差別が差別として裁かれない不条理を痛感してきた。
画期をなしたのが20年、在日コリアンの虐殺を宣言する年賀状が届いた川崎市ふれあい館脅迫事件。崔江以子館長が刑事裁判では初めてマイノリティの被害者として法廷に立った。以後、今回も含めて被害者の意見陳述制度や弁護団作成の意見書を通じて、差別に無関心な裁判官、検事に訴える取り組みが重ねられてきた。
「多くの人の努力によって言葉のレベルが少しずつ上がってきた」と中村さんは説く。論告では、20年10月のふれあい館事件裁判で「差別的で悪質」との言及があり、22年11月のコリア国際学園放火裁判では「異なる属性を有することのみを理由に」とヘイトクライムを念頭に置いた言い回しとなった。
だがいずれも判決では差別に触れずじまい。22年8月の京都ウトロ放火事件判決で「特定の出自を持つ人々への偏見や嫌悪感に基づく」と半歩踏み込んだ「実質的なヘイトクライム認定」が唯一の例外だ。
裁判官によって判断が揺れるのはおかしい。ヘイトクライムに関するガイドラインを定める必要がある。差別の動機を量刑に反映させる法整備も欠かせない。そうした根本的な変革へ向かう一歩にするためにも、と中村さんは力を込めた。「裁判官には今度こそ逃げないでほしい。ヘイトクライムを何とか食い止めたいという被害者の身を切る思い、恐怖を感じながら語った思いに応え、『差別』の文字を判決文に書き込んでほしい」
(『週刊金曜日』2023年5月26日号)