「捏造しかないと思った」 「袴田事件」死刑執行停止と釈放決めた元裁判官の証言
粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年6月4日7:00AM
「再審法改正の必要あり」
――その再審決定を東京高裁が取り消した時(18年6月)は?
もっと付け入る隙のない決定文が書けなかったかと、袴田さんとひで子さんに申し訳ない気持ちになった。また無罪判決まで時間がかかってしまうと思ったからだ。
――最高裁が高裁決定を破棄して差し戻した時(20年12月)は?
クリスマス・プレゼントとか聞いた。差し戻しを主張した3人は裁判官や弁護士たちで、私たちの合議体はよほど司法界から信頼されていないのかと思った(笑)。再審開始を主張した2人は有識者で学者と外交官。狭い世界にいる裁判官よりそういう人たちのほうが常識的な判断ができるのでは。
――今年3月の東京高裁(大善文男裁判長)の再審決定の評価は?
捜査機関の捏造について書いてくれた。これは勇気がいる。検察官すべてを敵に回すからだ。素晴らしい決定文だと思う。
――今後の静岡地裁での再審裁判のあり方については?
検察が有罪立証、弁護側が証拠捏造を指摘する形で進むだろう。袴田さんの年齢(87歳)もあり、できるだけ速やかに進めてほしい。
――再審法改正の必要性は?
以前はあまり感じなかったが、袴田事件を経験して、たった2次の再審請求にこれだけ年月がかかるのはおかしいと感じた。法的な規定がないからで、改正は必要だ。
――裁判官から再審のあり方を問う声が出ないのはなぜか。
再審を経験する裁判官が少ないこともあるが、そう考える裁判官もいるはず。改正を目指して私もお手伝いしたい。
◇ ◇
集会冒頭では袴田さんが姉のひで子さん(90歳)とともに登場。「戦いが始まる」などと話した。
(『週刊金曜日』2023年6月2日号)