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社会運動に関わる人も使える大ワザ/小ワザ/反則ワザ

雨宮 処凛|2023年6月16日7:00AM


 数少ない私の人生の自慢に、「ブレイク前のゴールデンボンバーのライヴに行ったことがある」というものがある。テレビ出演もまだない無名時代だったのだが、そこからあれよあれよという間に「エアーバンド」は大ブレイク。気がつけば、老いも若きも「女々しくて」を口ずさんでいたのだ。

 そんなゴールデンボンバーの鬼龍院翔氏が最近『超!簡単なステージ論 舞台に上がるすべての人が使える72の大ワザ/小ワザ/反則ワザ』(リットーミュージック)という本を出したので読んでみた。

 鬼龍院氏といえば、ゴールデンボンバーの全曲の作詞・作曲だけでなく、笑えるステージの演出や脚本、構成なども担当する「天才」。この本は、芸人活動を経て20年近くゴールデンボンバーを率いてきた彼の蓄積をマニュアル化したものなのだが、非常に参考になることが多かった。というか、本誌を読み、社会運動に関わっている人にこそ手にとってほしいと強く思った。

 本書で鬼龍院氏が強調するのは、「まずは音楽への幻想(過信)を捨てましょう」ということ。ミュージシャンが陥りやすい罠に、「いい音楽さえ作っていたら売れる」的な思い込みがあるが、これを一刀両断する。そして「興味のない人の心の扉を開くのは、音楽よりも共感と愛着」と強調する。

「(前略)見知らぬ誰かの心を開く多くのきっかけはまずは共感や愛着、その先に音楽があると考えると良いと思います」

 これは多くの社会運動にも応用できそうではないか。なぜなら、正しいことをしている人たちは、どこかで「自分たちは正しいことをしているのだからいつかわかってもらえる」と思っている。が、一向にわかってもらえる気配がないのであれば、ほかにできることがあるのだろう。ちなみに鬼龍院氏は「フラットに見たとき、あなたのジャンルが特殊であることを理解しておく」という心構えも教えてくれる。

 だからこそ万人ウケを考慮し、MCは「下から目線」。内輪ノリになって疎外感を抱く人が生まれないよう細心の注意を払い、「清潔感」と「愛嬌」を大切にして、人間として好きになってもらえるよう努め、ライヴハウス選びはお客さんのアクセスの良さを第一に、という心配りも教えてくれる。

 これは売れるはずである。今日からでもすぐに真似できそうな「ステージ論」、ぜひ手にとってみてほしい。

(『週刊金曜日』2023年6月9日号)

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