「このままでは死ねない」 大崎事件、96歳の原口アヤ子さん再審請求を福岡高裁支部が棄却
粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年6月20日7:00AM
「殺人犯」のレッテルは剥がれず、報道カメラが居並ぶ正門で「不当決定!」の垂れ幕が掲げられた。
44年前、義弟を殺害したとの罪で服役した原口アヤ子さん(96歳)が無実を訴えている鹿児島県の「大崎事件」。これまで3度出た再審開始決定がみな取り消されるという、再審史上でも異例の経緯をたどる事件だが、6月5日の福岡高裁宮崎支部(矢数昌雄裁判長)も、請求を棄却した鹿児島地裁の決定を支持して再び棄却した。
同日、宮崎県弁護士会館で会見した長女の京子さんは「残念で、残念でたまりません。母は『死ぬまで頑張る』と言っています。日本の恥だと思います。司法、裁判を変えていきたい」と話した。弁護団は最高裁へ特別抗告する。
アヤ子さんは脳梗塞で倒れ、現在は鹿児島市内の病院に暮らすが、後遺症で口を利くことができない。この日、第3次再審請求で再審を認めたことから期待された宮崎支部で反対の結果になったことを支援者から知らされ、「あきらめずにがんばろうね」との書面を見せられると、静かに頷いていたという。
弁護団の森雅美団長は「地裁決定からも後退している印象。確定判決が疑わしいと立証されれば再審になるはず。我々弁護側が無実を立証しなくては駄目だというような決定はおかしい」と批判した。
確定判決によれば1979年10月、鹿児島県曽於郡大崎町で農業Nさん(当時42歳)が酒に酔って自転車で転倒し、溝に落ちて自宅に運ばれた。Nさんの長兄の妻だった原口さんが元夫らに指示して首を絞めて殺害し、牛小屋の堆肥に遺体を隠した(動機は日頃から酒癖の悪いNさんを疎ましかったこと)とされ、元夫ら親族3人とアヤ子さんの計4人が殺人罪などで懲役刑となった。
有力な物証はなく、側溝に倒れていたNさんを発見して軽トラックの荷台に乗せて運んだ近所の2人の男性の「家に着いた時は生きていた」と話したという証言や、知的障害のある元夫らの証言が有罪の根拠とされた。
首謀者とされて懲役10年を満期服役した原口さんは出所後の95年に最初の再審請求をした。鹿児島地裁はこれを認めたが福岡高裁が取り消し最高裁も支持。第2次請求では3審とも棄却。第3次請求は地裁と高裁が請求を認めたが、最高裁が取り消し、第4次請求は昨年6月に地裁が棄却していた。