「このままでは死ねない」 大崎事件、96歳の原口アヤ子さん再審請求を福岡高裁支部が棄却
粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年6月20日7:00AM
映画監督の周防正行氏「裁判所は組織を守りたいのでしょう」
今回の即時抗告審で弁護側は、「転倒による頚髄損傷などの影響で搬送中に容体が悪化して小屋に到着した時には死亡していた」とする救急救命医の鑑定書を新証拠として提出していた。しかし矢数裁判長は「遺体の写真だけから鑑定したもので死因や死亡時期を推定する決定的なものとは言えない」などと退けた。
支部の正門前にはアヤ子さんを支援し、現場の再現映像を撮影した映画監督の周防正行氏(66歳)の姿も。周防氏は「裁判所は組織を守りたいということしかないのでしょう」と嘆き「当初の弁護士がアヤ子さんだけ無実とした、弁護過誤ともいえる失敗も大きいのでは」と話した。現在の弁護団の主張通りならNさんの死亡はそもそも事故であり「殺人事件は存在しなかった」ことになる。アヤ子さんのみならず、判決が確定したまま亡くなったアヤ子さんの元夫らも、死体遺棄などの可能性はあれども殺人については無実となるわけで、事案の構造が根底から覆る。裁判所には再審開始を決めにくいともいえる事案だが、それでも過去の請求審では殺人認定の大きな根拠となった「まだ生きていた」との目撃証言などへの疑問が認められ、3度にわたって再審開始を決定してきたのだ。
弁護団事務局長の鴨志田祐美氏は「確定判決通りなら、酔って寝て夜、目が覚めた兄弟たちが『さあ、殺しに行こう』となったというありえない話」とも話している。
52歳で逮捕され「あたいはやっちょらん。このままでは死ねない」と訴え続ける原口アヤ子さんは、15日で96歳になった。最高裁には「常識」を求めたい。
(『週刊金曜日』2023年6月16日号 *オンライン掲載にあたり一部修正)