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買春禁止法をめざそう

田中 優子|2023年6月23日7:00AM

 女性主催の講演に呼ばれることが多い。私は71歳だが、打ち合わせや講演後などにお話しするのは、さらに年上の女性たちだ。先日面白いことに、普段は滅多に上らない話題が2回も続いたのである。

 1回目、山極壽一さんはセクシーである。2回目、青木理さんには色気がある。どちらも70代後半の女性たちの言葉だ。私も全く同感。ただし、ご本人に直接言えば不快だろうから決して言わない。だがこの時の女性どうしの会話は無論、お二人の思想、姿勢、言葉に対して深い敬意を抱いていることを前提にしたものだった。個人としてのありようや人間性と切り離して異性としての魅力を語ることはできない。切り離したら魅力ではなくなるからだ。

 それこそが恋愛の基盤であり、恋心は人として自然なものだ。それと正反対なのが、性を個人全体から切り離して「道具化」することである。50年以上続いたジャニーズの問題がようやく公になって、権力関係による性行為の強要が、多くの男性被害者を生み出していたことが明らかになった。同時に『朝日新聞』は、男子への家庭内性暴力等の現実を連載するようになった。

 生活の自立に至っていない未成年者たちや社会的に自立の道が限られている女性たちに対し、権力関係を利用して関係を迫り、あるいは金銭の力で性を買う買春は、悪辣な行為だ。しかし日本では犯罪とされない。むしろ昨年までは売春者の方が「更生」の対象だった。法律が改正され福祉が目的となったが、まだ売春を「自由な職業選択」として支持する人々がいる。

 私は江戸時代の遊郭について、その文化の高さに一目置いていた。しかしそこに生きる遊女に眼を移した時に見えたのは、「家族のため」という社会の圧力を内面化して莫大な前借金に縛られ、命を削る女性たちの姿だった。権力や経済力の上下関係が固定化された社会に「自由」は存在しない。

 若ければ高い値がつきその後は値段が落ちるだけで、将来の可能性を伸ばす余地などない。絶えず病気と暴力の危険に晒され何の保障も受けられない。それは職業とは言えない。女性たちをこれ以上、そこに追いやってはならない。

 フランスが採用している「北欧モデル」のもとでは、買う側が罰せられる。EU(欧州連合)諸国はそこに向かいつつある。日本でも、運動を起こす必要がある。

(『週刊金曜日』2023年6月16日号)

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