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尊厳を確認するために
崔 善 愛(チェ ソンエ)|2023年7月14日7:00AM
コロナ禍が世界を席巻する直前の2019年11月、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地、「フィルハーモニー」ホールでの演奏会へ出かけた。その開演前、独ボーフム大学で教えていた木戸衛一教授とともにホール前広場を訪れ、設置された展示について説明していただいた。
「ここはナチの『安楽死』犠牲者のための追悼と記憶の場です。ベルリン・フィルのコンサートホール至近のここ『ティアガルテン通り4番地』で殺害計画が立案され、『T4作戦』と呼ばれました。ナチによるガス室での殺人は、アウシュヴィッツなどでユダヤ人らに対して行なわれる前に、障害者を使って“予行演習”されていたわけです。なにしろ彼らは『生きるに値しない命』とされていましたから」
ナチス政権成立以前の19世紀から、「優秀な国民を」という優生思想が科学者らによって促進された歴史も聞いた。
木戸教授に導かれて約1週間、ドイツ各地のホロコースト関連の追悼施設をまわった。収容所に輸送されるユダヤ人のほか同性愛者やロマ、子どもたちの銅像など、歩く先々で歴史の痕跡がある。「アンネ・フランク・センター」では、幼い子どもがその歴史にふれられるよう工夫され、実際、自分で閲覧画面をクリックしながら観ていた。また印象深く心に残ったのは、収容所でアンネが最後に言葉を交わした女性の生の声の証言だった。
真実は知れば知るほど想像を超え、残虐だ。しかし加害の歴史を軽んじることなく、彼ら彼女らの死を考え、悼み、証言者らの告白を聞く場に身を置くこと――。そこを訪れる人々の、歴史から学ぼうとするまなざしに接して、私自身が救われる想いがした。追悼とは死者のためだけではなく、今生きている私たち自身の尊厳の確認のためにこそ必要なのではないか。
今年5月末、埼玉県寄居町の正樹院にある関東大震災直後に殺された朝鮮人・具學永のお墓を訪ねた。当時28歳だった具さんは、正樹院から歩いて数分先の元警察署前で、隣町から朝鮮人を探しにきた農民らによって襲撃を受け(12人が有罪)、62カ所も傷を負った。
「なぜ、朝鮮人というだけでそんなむごい殺し方ができたのか。何がそうさせたのか」。私は何度も心の中で叫ぶ。それへの応答となる本誌特集をぜひ読んでほしい。
(『週刊金曜日』2023年7月7日号)