袴田事件再審、検察側が有罪立証する方針発表
粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年7月21日2:28PM
「捏造」否定したい検察
1966年に静岡県清水市(現・静岡市清水区)で発生した袴田事件では味噌製造会社の専務一家4人が殺害され、80年に最高裁で巖さんの死刑が確定した。2008年からの第2次再審請求では、14年に静岡地裁が再審開始と、死刑および拘置の執行停止を決定。最終的には最高裁より差し戻された東京高裁が「5点の衣類」の血痕の色調について「1年以上味噌漬けされた血痕の赤みは消える」と認定のうえ、衣類は「捜査機関による捏造の可能性が高い」として今年3月に再審を決定。検察は特別抗告を断念した。
しかし今回の立証方針で検察は「1年以上、味噌漬けされた5点の衣類の血痕に赤みが残ることは何ら不自然ではない」「複数の従業員が5点の衣類は被告人の物と証言している」「タンクに立ち入る機会のあった従業員は専ら被告人」とし「再審公判の審判は、確定審はもとより、開始決定をはじめとした再審請求の各判断に何ら拘束されない」と定義している。
会見後、弁護団は静岡地検に出向いて抗議文を手渡した。笹森弁護士は「出てきた主任検事に新証拠を見せろと言ったが拒否された。この時点で見せられないはずはない」。間弁護士も「これまで十分時間はあったはず。証拠を示さなければさらに長期化する。許せない」と怒りを見せていた。
会見で小川事務局長は「赤みが残る可能性といっても、それで犯行を立証できない。撤回させないと仕方ない」とも話した。「赤みが残らないなら袴田さんの犯行ではない」が、いつの間にか「赤みが残るなら袴田さんが犯人」にすり替わった印象だが、たとえ赤みが残っていたとしても、それがすなわち巖さんが犯人であるとの決め手にならないことは、他の多くの証拠からも明らかだ。検察は再審開始決定で裁判官に明示された「捜査機関の捏造」だけは否定したいため、引き延ばしを図っているにすぎないのではないか。
この日の静岡県は気温が35度を超えたが、巖さんは浜松市内で散歩やドライブに出かけるなどしていたという。
(『週刊金曜日』2023年7月7日号)