ヘイトデモのための公園使用不許可の川崎市処分は「適法」
人権侵害防ぐ行政施策を後押しする判決
石橋学・『神奈川新聞』記者|2023年7月28日5:15PM
ヘイトスピーチが行なわれることが明らかな場合、自治体は公的施設の使用を不許可にすることができる――横浜地裁川崎支部(櫻井佐英裁判長)は7月11日、ヘイトスピーチの事前規制を認める判断を示した。ヘイトデモのための公園使用を不許可にした川崎市の処分を巡る国家賠償請求訴訟の判決。「表現の自由」を装うレイシストの言い分をことごとく否定し、ヘイトスピーチによる人権侵害を防ぐ行政施策を後押しする内容で、画期的だ。
話は2016年5月にさかのぼる。在日コリアン集住地区である川崎市川崎区桜本を襲撃するヘイトデモ「日本浄化デモ第3弾」が計画された。主催者の津崎尚道氏(故人)は集合場所として公園の使用を市に申請したが、福田紀彦市長は許可しなかった。「不当な差別的言動から市民の安全と尊厳を守る観点から判断した」というコメントに、多文化共生を進めてきた市の姿勢が表れていた。
津崎氏は在日コリアンを排斥するヘイトデモを市内で繰り返してきた差別主義者。桜本を目掛けた日本浄化デモの「第1弾」を15年11月、「第2弾」を16年1月に実行し、出発前の公園で殺害まであおるヘイトスピーチを叫んでいた。
市は「第3弾」と銘打っている以上、差別煽動が三度行なわれる恐れがあると判断。近隣住民や在日コリアンは近づくことさえままならず、公園の利用に支障がある場合には不許可にできる都市公園条例に基づき、使用を認めなかった。
津崎氏とデモに参加予定だったレイシストの瀬戸弘幸氏、佐久間吾一氏が19年5月、表現の自由や政治活動の自由が侵害されたとして提訴。市の判断や差別的言動を理由に公的施設の利用を制限する是非についてどのような判断がなされるかが注目されていた。
原告の主張を逐一否定
結果は市の主張を全面的に認めて原告の請求を棄却するものとなった。市が問題視した浄化デモ「第2弾」での「韓国も北朝鮮も敵国だ。敵国人に死ね、殺せは当然」「真綿で首を絞めてやる」といった四つの発言は、すべてヘイトスピーチ解消法に定義する差別的言動に当たると認定。「第3弾」でも同様の発言がなされた可能性は高いとの判断を示したうえで「公園の周辺住民や利用者のうちの在日韓国人、朝鮮人の人格権を直ちに侵害することになるから、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見された」として、市の不許可処分は適法と結論づけた。
原告側はいずれのヘイト発言も「反日活動や集会の妨害勢力への抗議だ」と言い逃れをしたが、判決では「日本と韓国、北朝鮮が敵国である、敵国人に『死ね、殺せ』と言うのが当然であるとはいえない」「結局のところ、在日韓国人、朝鮮人を排除することを目的とした発言にほかならない」と逐一否定。差別を差別だと認めないレイシストの悪質さを踏まえて「何か条件を付けることで差別的言動を防止できたとは言い難く、不許可以外の方法で人格権侵害の危機を回避することができたとも認められない」と言い切った。
より重要なのは公的施設の使用制限に関する新たな判断枠組みが示された点だ。「言論の自由の事前抑制になるため、ヘイトスピーチを目的としたり、特定の個人に対する名誉毀損や侮辱といった犯罪行為が行われたりする恐れが、具体的に明らかに認められる場合でなければ、原則として不許可にするべきではない」として、ヘイトスピーチの有無がただちに不許可の要件になると明示された。
これまでは泉佐野市民会館事件や上尾市福祉会館事件を巡る判例から、警察の警備でも防げないような暴力抗争が念頭に置かれてきた。川崎市や東京都のガイドラインでもヘイトスピーチが行なわれる恐れに加え大混乱が予想される「迷惑要件」が設けられている。今回の判決に照らせば迷惑要件は不要となる。すでに実施されている事前規制にお墨付きを与えるだけでなく、ハードルを下げることで後に続く自治体のヘイト対策を後押しするものになっている。
(『週刊金曜日』2023年7月28日号)