SNS投稿で殺人事件の遺族傷つけたとされる裁判官が来春の退官表明
弾劾裁判の行方は
佐藤和雄・ジャーナリスト|2023年8月18日2:08PM
SNSの投稿などで殺人事件の被害者遺族を傷つけたり、民事訴訟当事者の社会的評価を不当に貶めたりしたとして訴追された岡口基一・仙台高裁判事(57歳)=職務停止中=を罷免し、同時に法曹資格も剥奪するかどうかを決める弾劾裁判(裁判長は自民党の船田元・衆議院議員)の行方が混沌としてきた。
戦後の弾劾裁判では10例目となる今回の裁判は、裁判官が司法への理解を広げるために一市民としてSNSで発信した内容が「クビに値する『非行』かどうか」が問われ、多くの憲法学者や法曹関係者から注目を集めていた。だが、7月26日の第8回公判で、岡口判事が最高裁に対し「再任を希望しない」旨を7月上旬に伝え、来春で退官することが明らかに。この後の運び次第では、実質的な判決が下されない可能性が出てきた。
裁判官は、罷免の訴追を受けると、裁判官弾劾法により勝手に辞めることはできない。一方、裁判官弾劾裁判所規則では「被訴追者に対して裁判権を有しないときは、判決で罷免の訴追を棄却しなければならない」旨を定めている。裁判官の任期は10年ごとで、岡口判事は最高裁から4月以降の再任を希望するかどうかの回答を求められ、「任期満了届」を出したという。7月26日の公判後に記者会見をした岡口判事の弁護団は「(退官までに判決は)ぎりぎり間に合うのではないか」と話す。ただ、秋の臨時国会で衆院解散ともなると裁判にそれなりの空白期間を生じる。裁判の行方は、今後の政局とも絡んでいる。
(『週刊金曜日』2023年8月18日号)