「2025年問題」にどう取り組むべきか
厚労省幹部ら交え日本の介護を問うシンポ開催
岩本太郎・編集部|2023年8月18日2:26PM
厚生労働省幹部や自治体首長らを発言者に招いて「日本の介護は大丈夫か?」を問うシンポジウムが7月17日に東京・八重洲で開催された。主催したのはNPO法人「地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク」だ。
同NPO(以下、地域共生全国ネット)は一昨年11月、それまで各地の医療機関が任意団体として運営してきた「地域医療研究会」と、在宅医療に携わる医師たちが運営していたNPO「在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク」の2団体が合併のうえ発足した。昨年9月に神奈川県平塚市で合併記念の第1回「全国の集い」を開催。今年も9月に名古屋市で第2回を予定しているが(※)、それに向けた「プレ大会」も目下各地で順次開かれている。この日の東京では、厚労省で高齢者医療や福祉等を所掌する老健局の和田幸典課長(認知症施策・地域介護推進課)、高齢者介護の先進的な取り組み事例で知られる世田谷区の保坂展人区長を講師に招いてのシンポジウムとして行なわれた。
まず第一部で「地域共生と地域包括ケアの今後」をテーマに基調講演した和田氏は団塊の世代が全員高齢者となる2025年以降を見越した政府の取り組みと課題を説明。少子高齢化や現役世代の減少(かつその地域差の拡大)等によって先行きが懸念される介護保険制度が「未来永劫まったく大丈夫と申し上げるつもりはない」としつつ、高齢者が4000万人に達する40年以降に必要な医療・福祉分野の就業者数は約1060万人との予測を披露。利用者数が増える一方で必要な就業者の確保が難しくなる今後の状況への対策として、介護保険法の改正による社会保障制度の整備のほか、介護サービス事業者における「生産性の向上に資する取組」(ICT=情報通信技術導入=等)、さらには専門職だけでなく地域住民の参加も得た形での生活支援・介護予防サービスの充実などを挙げた。
ただ「生産性の向上」なる概念がはたして介護になじむのかとの議論があることや、就業者の確保に関しては何より介護の担い手を増やしていくための施策が必要であることは和田氏自身も講演の中で再三認めていた。その後の質疑応答では、現場の介護事業者から「この(コロナ禍での)3年間は地獄の日々。講演の中でそのことへの言及がなかったのは残念だ。ワクチンの優先接種さえされない訪問介護ヘルパーに要介護の感染者が委ねられた。こういう状況が続けば若い人はヘルパーの仕事にますます希望が持てなくなる」といった批判の声も上がった。
介護従事者の地位向上を
第二部では「地域から2025年問題にどう取り組むべきか」と題し保坂氏が登壇したほか、介護問題に取り組む地方議員らも参加する形で議論が行なわれた。
世田谷区では区内28カ所にある「まちづくりセンター」に各地区の福祉相談窓口を集約することで「区民がサンダル履きで行ける」日常生活圏域レベルでのサービス態勢が整えられている。とはいえ同区でもこの分野で働く就業者の人材確保が深刻な課題。特別養護老人ホームでは求人雑誌に募集を出しても応募がなく、派遣会社に払う金額が年間1億円超になる例も。そうした中で「本来は相互扶助の仕組みである介護保険の中に市場化された論理が入ってきている」と保坂氏は指摘する。
本誌昨年10月21日号で報じた、同区内で働く介護従事者の写真展「KAiGO PRiDE」や、同区が区内の保育士を対象にした借上げ社宅制度(家賃補助)は、そうした公益的な使命を認められつつも苦しい生活環境に置かれた従業者の社会的地位向上や、生活支援を目的にしたものだという。「介護に携わる人々がプライドを持って仕事ができる状況に変えていかなければ『2025年問題』は暗澹たる結果になってしまうのでは」と保坂氏は語り、呼応する形で出席した地方議員各氏からも各地域の状況に関する報告や意見表明が相次ぐなど、9月の第2回「全国のつどい」に向けた機運の高まりを印象づける内容となった。
※地域共生全国ネット主催の第2回「全国の集い」は9月17日・18日に名古屋市の「ウインクあいち(愛知県産業労働センター)」で開催。(https://2023chiikikyousei.net/)
(『週刊金曜日』2023年8月18日号)