関東大震災下の朝鮮人虐殺「藤岡事件」について僧侶が講演
平畑玄洋・編集部|2023年8月31日5:56PM
関東大震災から100年となる今年9月1日を前に8月17日、群馬県で17人の朝鮮半島出身者が地元住民に殺された「藤岡事件」について、地元で伝承活動を続ける僧侶の小野文珖さんが東京の参議院議員会館で開かれた宗教者の集いで講演した。小野さんは「不幸な歴史を直視して後世に伝えなければ、本当の意味で大陸と日本の友好は達成できない」と訴えた。
事件は1923年9月5日から6日にかけて同県の藤岡町(現・藤岡市)で起きた。デマを信じた自警団などの地元住民らのべ1000人以上が藤岡警察署を取り囲み、保護されていた朝鮮人を竹槍、棍棒、日本刀や銃で殺害。37人が殺人と騒擾の疑いで検挙された。
小野さんは「家に帰れば善良な市民が人とは思えない残虐な行為に及ぶのは、私たちの心の中に差別や偏見があるからだろう」と語った。17人の犠牲者は藤岡町長の依頼で町内の成道寺に埋葬。24年6月には警察署長ら地元有志によって慰霊碑が建立され、法要も営まれた。石碑には犠牲者全員の名前が刻まれているという。
慰霊祭は何度かの中断を経て、93年からは毎年開かれ、今年は9月9日午前10時から成道寺で開催の予定。小野さんは藤岡出身の20代の若者が証言を集めたドキュメンタリー映像を作ったことにも触れ、「ただの儀礼で終わらせるのではなく、みんなで考え、差別や偏見をなくして平和な共生社会を目指して語り合うことが大切だ」と語った。
講演では県立公園「群馬の森」にある朝鮮人労働者追悼碑の撤去命令を県が出したことにも言及。群馬では戦時中、鉱山や工場、工事現場に動員された多くの朝鮮人が劣悪な環境での労働を強いられた。小野さんは「撤去命令の背景には歴史修正主義がある」と指摘。「二つの碑にはヘイトクライムに対抗する日本人の良心が垣間見える。朝鮮人殉難の歴史の中では貴重だ」と、存続を訴えている。
(『週刊金曜日』2023年8月25日号)