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「布川事件」再審無罪を勝ち取った桜井昌司さん死去

粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年9月5日7:24PM

 戦後の有名な冤罪事件の一つ、「布川事件」の元被告人、桜井昌司さんが8月23日、直腸がんのため死去した。76歳だった。

今年3月「袴田事件」再審決定後の報告集会で話した桜井昌司さん。(撮影/粟野仁雄)

 茨城県出身。20歳だった1967年に同県利根町布川で起きた強盗殺人事件で杉山卓男さん(2015年死去)と共に被疑者として逮捕され裁判で無期懲役が確定。2人は96年の仮釈放まで29年間拘束されたが、獄中から無実を訴え、05年に再審開始が決定、11年に水戸地裁で無罪となり確定した。再審では茨城県警が取り調べの録音を都合よく編集していたことなどが暴露され、桜井さんは国と県を相手に損害賠償請求裁判を提起。21年に全面勝訴が確定した。

「東住吉事件」で殺人の汚名を着せられ約20年間服役した青木惠子さん(59歳)は「刑務所に面会に来た桜井さんに励まされて頑張れました」。16年の再審無罪判決確定後は他の冤罪被害者の支援で桜井さんと一緒に全国を回ったが、23日は「湖東記念病院事件」の冤罪被害者、西山美香さん(43歳。20年に再審無罪確定)と一緒に訪れた岡山で訃報を知り、「腹水が溜まると聞いていましたが、集会に呼ばれると無理してでも参加していた。本当に寂しい」と話す。

 再審の頃、筆者の取材に「杉山と盗みや暴力などを働いていたから罰が当たったと思っていた」などと話したが、釈放後は杉山さんとは不仲だったという。刑務所では野球チームを作ったほか、獄中で書いた詩をまとめた詩集『壁のうた』(01年)も出版。仮釈放後に出会った女性と結婚していた。

 集会では警察や検察の横暴を怒りを込めて批判しつつ、他方で歌を披露するなど語りはユニーク。布川事件を描いたドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』(10年)のほか、昨年は桜井さんを追った『オレの記念日』も公開。今年3月の「袴田事件」再審決定後の報告集会の最中、筆者の携帯の呼び出し音が会場に響き「粟野さん、駄目だよ、あんなでかい音出す携帯、切っとかなきゃ」と怒られたのが最後になってしまった。合掌。

(『週刊金曜日』2023年9月1日号)

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