神戸市「王子公園」再開発で土地を私大に売却計画
関学との「出来レース」か
粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年9月8日3:16PM
神戸市灘区にある「王子公園」の「再整備」と称して同市が公園敷地内への大学誘致を計画。公募には現在のところ関西学院大学(兵庫県西宮市。以下、関学)のみが応募のうえ進行中だが、公園の土地を私大へ売却し、市民が安価に利用してきたスポーツ施設を廃止するほか樹木も大量伐採する計画に地元の反発が高まっている。
摩耶山麓の斜面に位置する市営の王子公園には動物園のほか陸上競技場、プール、テニスコート、相撲場、体育館などがある。広さは約19ヘクタール。1995年の阪神・淡路大震災では救援活動にあたる自衛隊の拠点にもなった。
ところが同市の久元喜造市長は2021年1月に突然「王子公園の一角(3・5ヘクタール)を大学誘致の場としたい」と公表した。大学誘致で町おこしを目指すような過疎地でもない、大都市の一等地の公園を潰す不自然な計画だが、市は「市内の大学生が減っている。学生を増やして将来的な定住人口増につなげる」などと説明。土地売却価格は約100億円で、昨年12月からの公募には関学だけが応募し、優先交渉権を得た。実はこの地は関学の発祥の地で、「表向きは公募としながら、関学との出来レース」とも噂される。
市の計画によると、最も駅寄りにある陸上競技場を公園の北側に移転・新築し、跡地をキャンパス(学生数約4000人)にする。プールやテニスコート、相撲場などが消え、立体駐車場が作られる一方で、桜など公園の豊富な樹木が大量に伐採される。市は「市民と学生との交流」を大義にするが、市民が大学に入って施設を自由に使えるはずもない。ある男性は、「わずかに残された憩いの森も、4000人という大勢の学生の場にされてしまい、近隣住民は追い出されてしまう」と話す。
関学にも署名を提出
8月27日、同公園で地元住民らの「王子公園・市民ミーティング実行委員会」(小林るみ子代表)主催の集会が開かれた。プールを愛用してきた男性は「プールは年に2カ月しか使っていないと市長は言うが、暑いんだから営業時間や期間を延ばせばいい」。子どもたちへの水泳指導をする女性は「ポートアイランド(中央区)の50メートルプールは深いし怖い。行き帰りに乗るポートライナーの運賃も負担になる」などと訴えた。他に「相撲場が県内では夢野中学(兵庫区)だけになる」との声や「市長は自ら大学誘致の理由を説明したことがない。市民から出た話ではなく金儲けや集客が目的の誘致だ」との指摘も。東京の神宮外苑再開発に反対する訴訟で原告団長を務めるロッシェル・カップさんは「愛着のある公園を大学キャンパスに変え、樹木やスポーツ施設を撤去することがなぜ地域住民や町全体にプラスになるのか」とのメッセージを寄せた。
実行委は8月29日に関学を訪れ、応募取り下げを求める6617人の署名を提出。7月には別に5750筆の署名を提出していた。村上一平理事長らにあてた撤回要求書を渡し、大学の窓口と交渉した。関学OBの男性は「市民の土地を奪って自分たちだけの利益を追求することは開学の精神に反する。悪いのは神戸市だが、話に乗ってしまったら同じこと」と話した。関学側は「阪神やJR、阪急も使える利便の良い土地で、関西の他大学に先を越されるかもしれなかった」などと話していたというが、他にそうした大学が手を挙げようとした節は見当たらない。
背景に六甲山系を持つ神戸だが市街地の緑はきわめて少ない。市は「1人あたり公園面積は広い」と嘯くが、それはほぼ人が住まない山上の広大な森林公園も含めた数字。実行委の金丸正樹事務局長は「昨年4月に阪神間の70以上の大学に公募への対応をアンケート調査した結果、応募の検討を始めたと答えたのは関学だけでした。市のヒアリングは市民の意見を聞いたふりをして聞き捨てているだけ。怒りを感じる」と話す。市の一等地を特定企業に切り売りし、子どもの遊び場や市民憩いの場を奪って環境を悪化させる久元市政の暴挙を許してはならない。
(『週刊金曜日』2023年9月8日号)