川崎市、図書館運営に指定管理者制度導入へ
市民らは見送り求め署名提出
長岡義幸・フリーランス記者|2023年9月16日3:35PM
川崎市は数年中に図書館12館のうち分館など8館と、13館の全市民館(他の自治体の公民館に相当)の運営に指定管理者制度を導入する手始めとして二つの条例改正案を9月4日、市議会に上程した。これに対し地元住民らによる「川崎の文化と図書館を発展させる会」(代表・城谷護さん)と、指定管理者の動きを把握して今年5月に結成した「社会教育を考える川崎の会」(共同代表・上村次明さん、武田拡明さん)の2団体がそれぞれ指定管理者の導入の見送りと継続審議を求める署名活動を展開。9月6日、共同で市議会に陳情書を提出した。
60~70代を中心にする両団体はネット署名を使わず、2週間ほどで紙の署名用紙にそれぞれ1530筆、1768筆を集めた。10月初めに市議会の委員会審議が行なわれることから9月末まで引き続き署名活動を展開中だ。
2団体は、市議会に陳情を提出後、市役所内の記者クラブで記者会見をした。「発展させる会」事務局の岡本正子さんは「なぜ指定管理者にするのか教育委員会に説明を求めたが、納得できるものではなかった」と表明。「川崎の会」事務局の江田雅子さんは「市民館や図書館は、行政も一緒になって、市民の共有財産と位置づけていた。利益を目的とする民間企業に指定管理をするのはまずい。公共施設は市民が平等に所有する社会共通の資本であるという、大事なところがすっぽり抜け落ちている」と訴えた。
さらに、両団体は経費縮減を目的にすることに疑義を唱え、低賃金や不安定な身分となる「非正規労働の温床」になってしまうと指摘。市の職員も減らされると、人づくり、地域づくりを担ってきた社会教育活動や市民自治に影響が出かねないと主張した。
自民からも市議会で異議
指定管理者とは、自治体の施設などを民間事業者に、管理・運営を行なわせる制度だ。2団体の説明や資料などによると、指定管理にかかわる条例改正案の提出までに、次のような経過をたどっている。
図書館、市民館とも現在は川崎市の直営で運営されているものの、昨年1月、市教育委員会が「効率的・効果的な管理運営手法」として指定管理者の導入の検討を示唆。翌月、市の設置する社会教育委員会議に報告したところ、同会議がかつて「指定管理者制度の導入の必要性は見当たらない」との見解をまとめていたことから、指定管理者導入の立場ではないとする意見が出ることになった。
ところが5月には、市民館と一部の図書館を指定管理に移し、直営館が親館として指定管理館を「モニタリング」するなどの案を検討中と議会に報告。市がパブリックコメントに付したところ、意見のほぼ90%が反対だった。市民館館長会議でも「なぜ拙速に指定管理導入を進めるのか」という意見が出たという。この間、「発展させる会」なども直営を原則にするよう、市議会に陳情を行なったものの不採択になった。
他方、市議会の会派のうち共産党は、市民館の利用料金などが民間基準になりかねない、情報公開が限定されブラックボックス化するなどと疑義を表明。それ以外の会派は指定管理者制度の導入に賛成ではあったものの、各会派に働きかけを実施。今年3月の定例会では自民党が「指定管理を導入すると判断するに足る根拠が示されていない」と代表質問で取り上げた。維新を離脱した無所属議員も9月議会を前に「川崎市政は新自由主義にもとづく政策をさらに推し進めようとしている」と指定管理者制度をブログで批判する展開となっている。
市教委生涯学習推進課は取材に「議会宛ての陳情に対応することは考えていない。両団体には必要に応じて説明しているので、そのような対応を引き続き行なっていきたい」と語った。
多くの自治体では図書館や公民館にも指定管理を導入している。しかし、儲け主義に走っているという批判は潜在し、なかには直営に戻した例もある。川崎市民らの訴えは、杞憂ではないだろう。
(『週刊金曜日』2023年9月15日号)