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東日本大震災被災地で解体進む城下町の遺産救え! 
「そうま資料ネット」が訴え

寺島英弥・ローカルジャーナリスト|2023年9月16日3:45PM

「そうま歴史資料保存ネットワーク」(鈴木龍郎代表。以下、そうま資料ネット)の活動報告会が、9月3日に福島県相馬市の県立相馬高校で開かれた。約100人の来訪者は藩政期以来の商家などから救出された遺物や屏風絵などの展示に目を見張り、「そうまの歴史を守る・つたえる」と題された「現場発」の報告に聴き入った。

9月3日、「そうま資料ネット」の活動と成果を発信したシンポジウム

 地元出身の日本画家である代表の鈴木さんはシンポジウム冒頭で訴えた。「わが実家は地震で潰れ、心は折れ、保存も適わず、古い家々は解体しかない現実。壊すだけでは何もない街になる。自分の根っこも、子や孫に教える古里も……。私たちの街だと言えるのか?」

 筆者はその家を昨年3月に取材した。相馬氏城下だった古い家並みの一角にある元武家屋敷(90年前に改築)は屋根付きの大玄関が前のめりに倒れ、数寄屋の母屋は倒壊寸前。「東日本大震災の揺れに耐えたが、その後二度の大地震(2021年2月と昨年3月に相馬で最大震度6強)で……。末永い保存のため、文化財登録を働きかけていた矢先だった」(鈴木さん)

 市内では被災家屋の公費による解体の申請が1000件余り。解体後の更地が駅前や商店街に広がり、市民になじみ深い由緒ある店々も消えていく。鈴木さんは東京に住み、震災後は美術仲間らに呼び掛け、被災地の支援展を開催してきた。「古里の震災は今も続いている。城下町の歴史遺産、景観も消滅の運命。同じ危機感を抱く仲間と議論し行動する場をつくりたい」と決意。相馬高校の同窓会「馬城会」の縁深い民俗学者、郷土史家、商工会議所の会頭、高校講師ら有志と「そうま資料ネット」を旗揚げしたのは昨年9月だ。

「懐かしい未来」に生きる

「残せるものなら何とか残したかった」。シンポで心情を吐露したのは、先月に解体工事を体験した佐藤重義さん(70歳)。街の本、文具の店として親しまれた「丁子屋」店主で、藩政期に遡ると「お城に生薬を納めた」商家の11代目だ。店と自宅は土蔵が3棟連なる。「そうま資料ネット」が初めて催した歴史の街歩き会を機に、その貴重な造り、数多く保管された暮らしの民具、掛け軸や陶磁器、古文書類などが日の目を見た。

 調査実施や資料解読を担うのは福島大学の阿部浩一教授と東北学院大学(宮城県)の斎藤善之教授。鈴木さんの志を伝え聞き旗揚げに協力し、協働する。大津波や原発事故の被災地で歴史資料の救出経験を重ね、両県の「資料ネット」の代表者も務める。大勢の大学生が丁子屋の資料調査に参加した発掘での成果の一つが、藩政時代のものでは最古の1831(文政14)年の城下地図。丁子屋代々の屋号「輿八」が商家街の要に記され佐藤さんを感激させた。「地図にあった店で今も残るのはうちだけ。地震で土壁が割れて崩れ解体も仕方がないと諦めていたが、何とか残せないかと気持ちが変わった」

 蔵の2階部分を補修し、新しい土台の建物に載せ、城下町の形見を残したいと市役所に掛け合ったが、全部解体以外に制度は許さないのが現状。それでも佐藤さんは部材の太い梁と棟木の一部を保存し「生かしてくれる人や機会を待ちたい」とシンポで語った。

 阪神・淡路大震災後の神戸で生まれた歴史資料ネットワークは現在全国に約30団体。災害や再開発、地域衰退に抗い、かけがえのない文化を守る運動を全国に広げている。その中で地元の市民が主体となって活動するのは「そうま資料ネット」が唯一だという。

 筆者も同郷、同窓の縁で仲間になった。『河北新報』記者時代から重ねた震災、原発事故被災地の取材で知ったのは、古里の町や村を失い、新しい造成地で生き直す人々の寂しさ、喪失感。街の解体が進む相馬で同じことが起きている。誰もが「本当の復興とは何か」を問い、歴史の記憶とつながる「懐かしい未来」に生きたいと願う。「そんな当事者をつなぐ運動だから」と筆者はシンポで発言した。

 木造家屋の修復も許さず、解体のみの現制度、支援なき行政、相次ぐ救出依頼――。問題とも向き合いながら、活動は続いてゆく。

(『週刊金曜日』2023年9月15日号)

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