「関東大震災、アイゴー展」がソウルで開催
市民の関心高く会場は満席
徃住嘉文・報道人|2023年9月16日3:57PM
本誌9月1日号で紹介した「関東大震災、アイゴー展」が、横浜市に続きソウル市でも9月1日から始まった。しかし記者会見に来た日韓のメディアは『朝日新聞』だけ。これはいったい……。
「メディアが追うのはネットですぐ『いいね』がつくような題材だ」。日韓の作家らによる実行委員会は心配する。全泰壹記念館での初日、壇上に作家9人が並んで会見が始まった際、記者席にいたのは『朝日新聞』ソウル支局初の女性記者だという太田成美さん一人だった。
韓国メディアは、虐殺の真相解明を求める動きなどを報道しているから、無関心とは言えない。だが対日関係強化を進める尹錫悦政権下、政府与党が作家らの通信記録や資金源を調べるなど圧力が強まっている。他方、加害国の日本では政府が虐殺を認めない。メディアもたとえば『産経新聞』の8月21日付朝刊が、災害時の流言飛語問題について「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマを紹介しつつ、その結果起きた大量殺人にまったく触れぬまま現代のSNS社会の課題へ記述が飛ぶというトリッキーさだ。
それでもソウル展は会見後、開会式が100人近い満席となり、市民の関心の高さを見せつけた。
「遺骨も魂も日本で彷徨っている。でも展覧会は誰かを恨み、責めるものではない。死者に対する生者の道理、礼儀です」と、参加作家代表の高慶日さんは言う。
開会式で詩人のイ・ジョンロクさんは井戸を題材にこう詠った。
「右の流浪人たちは(略)叫ぶ 殺せ、善き韓国人も悪しき韓国人も皆殺せ(略)関東大震災から100年ぶりの慟哭〈アイゴー展〉 トントンと肩を組み拳を並べ 冷たい水を一杯ずつ分けて飲み叫ぶ わたしたちは真実の一つの井戸を掘る わたしたちは平和の井戸を掘る 二度と井戸に唾を吐くな 二度と噓の舌で、殺しの井戸を掘るな」
(『週刊金曜日』2023年9月15日号)