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海を汚すことは私たち自身を汚すことである

想田 和弘|2023年9月16日4:16PM

 瀬戸内海に面する町・牛窓で暮らし始めてから3年近くになる。

 僕にとって、海辺に住むことの楽しみの一つは、海で泳ぐことだ。夏の間は、毎日のように泳ぐ。

 だいたいは、太陽が山の向こうへ沈みかけたころにさっと水着に着替え、つっかけを履いて自転車を走らせ、赤や黄金色に染まった水面に身体を滑らせるようにして飛び込む。海水浴客の大半は帰途についた後なので、人影はまばらである。泳ぐのはせいぜい15分程度。夕陽に照らされた遠くの島々を眺めながら、冷たい海水に身を浮かべていると、全身にへばりついた熱気や粘り気がスーッと解かれていく。身体も心も澄んでいく。

 日中のうだるような暑さの中、汗だくの身体を冷やしに泳ぎにいくこともある。太陽がギラギラと輝く光の洪水の中、海水の冷気が身体に染み渡っていく。

 昨日の夕方は、まるで湖のごとく波がなかった。水面が鏡のように静謐かつ滑らかで、僕が手や足で水をかくたびに、赤や黄色や青色を湛えた美しい波紋が広がっていった。海に仰向けに浮かび、ピンク色やオレンジ色に染まった雲を眺めながら、幸福とはどこか遠くにあるものではなく、こういうひとときにあるのだと思った。

 しかし同じ牛窓の海でも、海流の関係で、ペットボトルやアルミ缶、発泡スチロールなど大量のゴミが流れつき、とても泳ぐ気になれないような日もある。実を言うと僕の場合、海に長く浸かりすぎると、皮膚にアレルギーのようなブツブツができたりもする。原因は調べていないが、たぶん海水に含まれる何らかの化学物質に、身体が反応しているのだろう。事実、日によっては、口に触れる海水にケミカルな臭いが混じることがある。

 人間を含む生きとし生けるものは、海から生まれた。私たちの血が塩辛いのは、その名残りであろう。そういう母なる海に生かされながら、一方で私たちは平気な顔をして海を汚し、埋め立て、破壊し続けてきた。そして福島でも、辺野古でも、さらに汚し、壊そうとしている。

 海と私たちは一体である。海を汚すことは、私たち自身を汚すことである。そのことをもはや自覚できないほどに、私たちは自分自身であるはずの海を、客体化してしまったのだと思う。

(『週刊金曜日』2023年9月15日号)

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