核のごみ「文献調査」受け入れの請願を対馬市議会が採択
市長の判断は?
佐藤和雄・ジャーナリスト、「脱原発をめざす首長会議」事務局長|2023年9月22日5:04PM
原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)の最終処分場をめぐり、長崎県対馬市議会(定数19人)は9月12日の定例会で、処分場選定の第1段階となる「文献調査」の受け入れを求める請願を賛成10、反対8の賛成多数で採択した。同日、参議院議員会館で開かれた集会で前日まで対馬市を訪問していた原子力資料情報室研究員の高野聡氏は現地の状況を説明したうえで「市長は反対を表明するのではないか」との見通しを示した。「文献調査」に応募するかどうか、または国からの申し入れを受け入れるかどうかの判断は首長にゆだねられており、比田勝尚喜市長は今議会中に最終判断を示す考えを示しており、会期末の9月27日に表明するとみられている。
参議院議員会館での集まりは、北海道函館市が原告となった電源開発による大間原発建設差し止め訴訟の報告集会。高野氏は、「核ごみ調査拡大に抗い 地域の分断を食い止めよう」と題する講演をした。
その中で、「文献調査」を受け入れた北海道寿都町では地域の分断が進んでいる状況を具体的に報告。町内で住民同士による挨拶や会話がなくなったり、反対派住民が取り仕切る神社の伝統的な祭りに町長が欠席したりしている事例を挙げた。
高野氏は経済産業省の審議会である「放射性廃棄物ワーキンググループ」の委員を務めており、対馬市議会の8月の参考人質疑では反対派議員の推薦により参考人として呼ばれ、寿都町での分断の状況などを説明したという。高野氏によれば7月19日の時点で2万3776筆の反対署名が集まり、そのうち島内住民の署名が8160筆だったという。対馬市の人口は8月末で約2万8000人なので、約3割が反対の意向を表明していることになる。
高野氏が、比田勝市長は反対を表明するのではないかと考える理由として、2020年3月の市長選で処分場誘致に反対する公約を掲げていた点を挙げる。当選直後に比田勝市長は報道陣に対して「交付金という甘い面もあるが、農林水産物の風評被害なども危惧される。この選挙で、対馬として『NO』という民意が示された」(2020年3月3日朝日新聞デジタル)と語っている。また、今年に入ってこの問題が取りざたされるようになってからも慎重な姿勢を崩していない。
請願採択から一夜明けた9月13日、反対運動を続けてきた「核のごみと対馬を考える会」の上原正行代表に受け止めを聞くと、「結果は想定内です。当初は反対議員は3人でしたが、それが8人に増えた。運動の成果が出た」と意気軒高だった。副代表の糸瀬敬一氏は「市長はおそらく反対という形で表明すると思う。私たちは『市長の応援団です』と言っている。とにかく対馬は島ですから、住民が二分されないように、いがみあうことがないようにしたい」と話す。
闘い続けることに意味
高野氏の講演の前、大間原発建設差し止め訴訟の原告側弁護団から9月12日の口頭弁論の内容について報告があった。この訴訟は自治体が初めて原告となり、国と電源開発を訴えるという画期的な訴訟。それだけに自治体の首長の意向が大きく影響する。
函館市は今年4月の市長選挙で、新人で元保健福祉部長の大泉潤氏(俳優の大泉洋氏の兄)が、現職の工藤寿樹氏を大差で破った。訴訟は工藤氏が提起し、これまで進めてきたため、首長交代がどう影響するかが注目されていた。
弁護団長の河合弘之氏は新市長の意向を直接確認するため、9月4日に海渡雄一弁護士とともに大泉市長を表敬訪問したことを報告。大泉市長は「大間原発は有害であり、危険であり、裁判は実施していく。弁護団はがんばってください」と激励したという。さらに「この裁判は闘い続けることに意味がある。じっくりやってください」と述べ、法廷闘争が長期に及ぶことによって、電源開発の原発建設を実質的に阻止する考えも示したという。
(『週刊金曜日』2023年9月22日号)