相模原市の障害者施設殺傷事件を題材にした映画『月』
雨宮 処凛|2023年10月2日2:11PM
映画『月』を観た。
辺見庸氏の小説を映画化した本作は、7年前に相模原の障害者施設で起きた殺傷事件をテーマとしたものだ。
映画を観ている間じゅう、深い森の奥にある施設の閉塞感に圧迫されるような感覚に陥った。
人里離れた静かな「三日月園」で働き始める元・有名作家。しかし、働くにつれて見えてくる、職員による暴力や虐待。見ないふりをする園長。
思えば、植松聖死刑囚は施設で働き始めた頃、障害者を「かわいい」と言っていた。それがいつからか「一日中、車椅子に縛られている」「食事もドロドロ」などの理由から「かわいそう」と言うようになり、突然「殺す」に発展する。この飛躍は異常としか言いようがないのだが、裁判にて、彼は差別的な考えを持つようになった経緯について、ほかの職員の言動をあげている。
入所者に命令口調で話す職員。また、暴力を振るっている者もいると耳にしたという。暴力については良くないと思ったが、「2、3年やればわかるよ」と言われたと述べている。2、3年経てば、暴力を振るう気持ちがお前にも理解できるよ、ということだろう。それを受け、植松は食事を食べない入所者の鼻先を小突いたりするようになったという。
また、死刑判決確定後の2021年には、元施設関係者が内部の事情についてライターの渡辺一史氏と『創』にて対談しているのだが、そこには衝撃的な記述がある。
「実は、『障害者なんていなくなればいい』と言っていたのは植松ひとりじゃないですし、先輩職員の中には、『彼らが生かされてること自体が、血税の無駄遣いだ』とはっきり言い切るような人もいました」
それだけではない。植松自身が「バカ植松」と呼ばれて他の職員からバカにされ、さらに上司からパワハラを受けていたのではという疑惑にも触れられている。
もちろん、どのような背景があったとしても植松のしたことは絶対に許されることではない。しかし、死刑が確定した後に出てきた新事実に、「これが裁判の時に出てきたら」と思ったのも事実だ。裁判では、やまゆり園の職場環境や障害者支援のあり方にはほとんど触れられなかったからだ。
『月』は10月13日から全国ロードショーが始まる。
(『週刊金曜日』2023年9月29日号)