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IKEA(イケア・ジャパン)、従業員に着替え時間の賃金未払いが発覚 
9月から急遽ルール変更

東海林智・ジャーナリスト|2023年10月5日2:09PM

 家具小売り大手のイケア・ジャパン(千葉県船橋市)が2006年の開業以来、従業員の制服への着替え時間について賃金を支払っていなかったことが判明した。筆者の取材に対し同社は事実関係を認め、9月1日から着替え時間の賃金を支払うようルールを変更したと従業員に告知。新たなルールでは着替え時間を一律5分とし、計10分を労働時間に含めるという。

着替え時間賃金未払いが指摘されたイケア・ジャパン(写真は渋谷店)。(撮影/尹史承)

 同社は非正規雇用だったアルバイトを短時間正社員としたり、同一労働同一賃金の考え方を取り入れたりと先進的な取り組みが評価されていたこともある。流通関係者の間では「イケアほどの会社が、なぜ払っていなかったのか」との声も出ている。

 筆者が入手した、新ルールとなる前のイケアの勤務時間について記した「勤怠管理について」の文書では「勤務開始時はユニフォームに着替えて、シフト時間の9分前から打刻ができます」と書かれており、着替え時間の賃金が発生しないことがわかる。

 同社で勤務経験のある女性は「働く時はシャツ、パンツ、靴を会社指定のもの(ユニフォーム)に着替えてから(タイムカードを)打刻し、逆に仕事終わりは打刻してから着替えるようにと言われていた」と証言する。この女性は大手ファミリーレストランでも働いた経験があり、その時は「制服に着替える時間は労働時間」と説明され、1回の勤務で6分ぶんが着替え時間の賃金として支払われていたという。女性は「月にすれば2000円ほどだが1年なら2万円を超え、大きかった。イケアの指示には疑問を感じていた」という。

 着替えの時間をどのように考えるべきなのか。最高裁は2000年3月、作業服の着替えが労働時間に当たるかどうかが争われた訴訟(三菱重工長崎造船所事件)の上告審判決で、労働時間を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義。そのうえで、使用者から義務づけられた作業服の着脱は労働時間にあたる――との判断を示した。厚生労働省も17年に同様の指針を出している。

 たとえば会社員が家でスーツを着る時間は勤務時間には含まれない。だが、安全な作業のために会社が指定した作業服に着替える、あるいは飲食店や接客業で現場に統一性を持たせ、衛生管理も兼ねて着用を義務づける制服などへの着替えは勤務時間と考えるのが一般的だ。ちなみに「制服での出勤を認める会社なら着替え時間は発生しない」との解釈を示す法律関係者もいるようだが、イケアは「会社以外で制服を着て行動することは許されない」と言う。つまり会社に着いてから制服に着替えなければならないのだ。

「うちでも」と続々反響が

 一方、今回の事案を『毎日新聞』8月28日付で報道すると、筆者のもとには多数の労働者から「うちの会社も払われていない」との情報提供が相次いだ。それは飲食店や物販店から製造業の名の通った会社まで幅広くあった。法律に明記されていないとは言え、判例や通達もあるのに、こんなにも広く不払いがあるのかと改めて驚かされた。その理由を考えた時、ある高校の教員の話を思い出した。

 その教員は授業の中で、着替え時間にも賃金が発生することを判例をもとに説明した。すると生徒から「私も支払われていない」と相談を受けた。生徒は和服への着替えが必要なアルバイトをしていて、毎回着替えに20分ぐらいかかるという。生徒にユニオンを紹介し、自身も加入し一緒に団体交渉に取り組んだ。すると会社は「仕事を始める前にちゃんと準備をするのは社会人として当たり前のこと。高校生だからといって甘やかさない」と言ったという。教師は「団交なのでこちらも判例を示して支払うことで合意したが、生徒だけなら『社会人としてのルール』とか言われて丸め込まれていたと思います」と話していた。

 高校生の例を紹介したが、飲食や流通、小売りの現場で働く人は非正規である割合が高い。低賃金で働く人に、払うべき着替え時間の賃金を支払わないのは、社会として当たり前……ではない。

(『週刊金曜日』2023年9月29日号)

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